新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



続・フツーに学んだら百人一首なんてつまらないに決まってる〜背景で覚える百人一首

以前書いた、好きな百人一首に対する自分なりの解釈の続きです。
前回、独断と偏見で僕の好きな百人一首の解釈を書いたのですが、思いのほか数が多くて書ききれなかったので、続きをまとめたいと思います。
あくまで僕は古典の研究者ではないので、「自分はこう味わった」という解釈です。
ところどころ通説とは違うところがあるかもしれませんが、どうか目を瞑ってやって下さい。。



30首 有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり 憂きものはなし
壬生忠峯
有明の月がなぜかつれなく見えた。薄情に思えたあの別れの時から、夜明け前ほど憂鬱なものはありません。―

有明の月とは、朝日が出た時にまだ沈まない月のこと。
僕は朝日が出ても未だ沈まない月に、もう別れてしまったのだけれども未だに忘れることのできない恋仲であった女性を重ねていると解釈しています。
自分の中でまだ完全には気持の整理のついてない別れの後、まだ未練が断ち切れない自分の気持ちを体現するかのようにぼんやりと出ている有明の月と、目が覚めると大好きだった人が隣にいないという切なさが、朝を迎えると同時にやってくる。
だから夜明け前が一番つらいのだという繊細な気持ちが、わずか31文字でこれ以上ないほど的確に伝わってくるようで大好きな一首です。


50首 君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
-君のためには惜しくないと思っていたこの命なのだけれども、結ばれた今となっては、ほんの少しでも長く行きたいと思うようになったものです。-
ひとつ前の歌とは対照的に、自分の気持ちをそのまま描いた一首です。
ずっとあなたを守るためならば命など惜しくないと思っていたけれど、いざ一緒になったら少しでも長く生きたいと思うようになった。
男として大切な人は命を守りたいという気持ちと、大好きな人と少しでも一緒にいたいという気持ちとがせめぎ合う、男ならだれでも分かるけれどうまく言葉にできないあの気持ちを、非常にうまく表現してくれているような気がします。
映画「永遠の0」で主人公の佐伯は、周りになんと言われようとも家族と一緒にいたいと願い、最後までゼロ戦での特攻を拒みました。
しかし最後には国や家族を守るために乗り込んでいく。
ちょうどこの歌に描かれているような気持ちだったのではないでしょうか。



61首 いにしへの 奈良の都の八重桜 けふ九重に にほひぬるかな
-昔の奈良の都に咲いていた八重の桜が、今日、ここ京都の宮中に一層美しく咲きほこっていることよ。-
710年から70年ほど、奈良に都がありました。
八重桜はそこに咲いていた桜の品種。
この歌は、献上された八重桜の香りが宮中に香る様子を詠んだものです。
作者伊勢大輔は、10世紀に活躍した歌人なので、平城京を知るわけではありません。
したがって、話に聴いた古都を頭に浮かべて詠んだものと考えられます。
この歌では、「層美しく咲き誇る」ことを、「九重ににほふ」と表しています。
八重桜が一層美しくということで、「九重」とするあたりが非常に気に入った作品です。


72首 音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の ぬれこそすれ
-噂に名高い高師の浜のいたずらに立つ波は、気を付けなければならないのです。袖を濡らすといけないから。-
高師の浜は大阪にある地名です。
今は埋め立てられてしまい、浜の面影はありませんが、当時は波がたつ浜が広がっていたようです。
この歌は一見すると高師の浜の波について詠んだ歌に見えますが、実は遊び人の男の人に対する誘いの断り文句です。
高師の浜には、地名の他に「世間に名高い」という意味の「高し」が掛言葉として隠されています。
「世間に(遊び人として)名高いあなたに~」という意味で訳すと次のような現代語訳でしょうか。
「噂に名高い浮気男のあなたのお言葉だから信用なんてできません。裏切られて袖を涙で濡らすことになるなんて嫌ですから。」
袖を濡らすという表現は、古典では「涙を流す」こととして使われます。
情景描写に断りの文句を織り込む機智に富んだ表現であることと、断っている反面でほんの少し男に惹かれているかのような余韻を残す何とも言えない雰囲気を纏わせる、非常に繊細な一首だと思っています。



冬休みから今くらいにかけて、中学校の学校課題で百人一首を覚えてこいという宿題が出されます。
生徒さんたちは、みんな必死に覚えていました。
露骨に嫌々という表情をして(笑)

意味を味わうことなしに百個の短歌を覚えるのは、やっぱりしんどいと思います。
それはたとえ現代語訳が付いていても同じこと。
単なる「訳」としての解説じゃなくて、その時の絵や作者の心情、そしてその歌のどこが凄いのかというあたりを説明されて始めて百人一首に興味を持てると思うのです。
丸暗記という和歌の「消費」ではなく、ひとつひとつの和歌を「味わう」ようにする。
そんな風に読んだら、百人一首を覚えるという課題も、ほんの少しだけ楽しくなるような気がします。


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