新・薄口コラム(@Nuts_aki)

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マンガ・アニメ考察20雪花の虎〜少女マンガ家ならではの青年向けに描く歴史マンガの工夫

今年の春に創刊された小学館のヒバナという雑誌。
その中に連載されている作品の一つに、東村アキコ先生の「雪花の虎」があります。
雪花の虎は、先日「かくかくしかじか」でマンガ大賞をとった東村先生が描く、上杉謙信を主人公にした歴史マンガです。
歴史マンガには興味がないのですが、一話目の始まり方が本当に面白くてついつい引き込まれてしまいました。

作者のエンターテイナー気質が現れた導入部

もともと東村アキコ先生は好きな作家なのですが、歴史物と聞いた時は少し不安に思っていました。
僕は東村アキコ先生の最大の魅力は、マンガ全体に流れる読者を楽しませようとする先生自身のコメディアンとしての要素であると思っています。
歴史マンガの場合どうしてもストーリーの大体の流れは決まっていたり、史実に合わせるために堅苦しい説明が不可欠になったりじす。
だから、歴史マンガでは東村先生「らしさ」が十分に発揮されないと思っていました。

雪花の虎も、冒頭は上杉謙信の説明から始まります。
そこから背景説明が続くのかと思って読み進めていたら、3ページ目からはなんと作者自らが登場してきました(笑)
歴史が苦手な人やくどくどした説明がいらないという読者にも読んでもらえるよう、ワープゾーンなるものが途中から登場します。
3ページ目からは紙面の上3分の2くらいでは上杉謙信についての説明が続きます。
そして下半分ではコタツに入った作者が雑談やらこのマンガを描こうと思ったきっかけなどを語っていく。
歴史好きの人は丁寧に読み進め、あまり興味がない人は下のエピソードトークを読めばいいという構成です。

この構成を観た時に、少女マンガならではだと思いました。
歴史マンガだと、どうしても歴史や登場する人物の魅力を伝えようとする構成になりがちです。
しかし、雪花の虎はあくまで上杉謙信という題材を通して読者に楽しんでもらうことが第一に考えられているように感じました。
これは、東村アキコ先生が少女マンガを主戦場にしているからこそだと思います。
少女マンガで本格的な歴史ものというのはあまり見かけません。
それは、少女マンガの読者層に合戦や英雄ものの需要が少ないからでしょう。
そうした場所を主戦場に今までマンガを描いてきた東村アキコ先生だからこそ、「歴史に興味が無い人はこっちを読んでね」みたいな構成を作れたのだと思います。

トリッキーな設定

これは、一つ前に取り上げた遮那王でも書いたことですが、歴史マンガだとどうしても結論と登場人物の縛りが強く、設定でキャラを立たせるということが難しくなってきます。
そのため、どうしても主人公とする歴史上の登場人物の人柄を際立たせるという方向に行きがちです。
しかし、雪花の虎はあえて歴史のトンデモ説のひとつのような(作者も一話目で言っていました)上杉謙信女説を題材にすることで、主人公のキャラクターを作り上げています。
個人的には、遮那王の義経が影武者であるという設定に並ぶ上手いキャラクター設定だと思いました。
上杉謙信を女性とすることで、今後様々な展開に進めることができます。
何より、女性としての内面描写を描ける様にすることで、東村先生が得意とする少女マンガ的な内面描写を描くことができる。
そういう意味でも、上杉謙信を女性にしたのはうまいなと思いました。


少女マンガ家が描く青年誌向けの歴史マンガということで、かなり異色の雰囲気が出ています。
海月姫」や「主に泣いてます」のように、とてつもなく濃いキャラクターを操って、面白おかしくストーリーを転がしてきた東村アキコ先生が縛りのあるキャラとストーリーでどんな展開を作るのか。
本当に楽しみな作品です。
現在、第一話がヒバナのサイトから立ち読み可能なので、是非読んで見てください。
まどマギではないですが、3ページ目からが凄いです(笑)
[雪花の虎]第1話_東村アキコ_試し読み/ヒバナ

アイキャッチ東村アキコ先生の「かくかくしかじか」

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かくかくしかじか 1

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