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マンガ・アニメ考察22ちはやふる〜縦軸の人間関係にめっぽう強いマンガ

末次由紀先生のちはやふる
最近の僕のお気に入りマンガです。
小学校時代に引っ越してきた綿谷新と仲良くなるきっかけになったかるた。
新は6年生の時に地元の福井に戻らなければならなくなります。
主人公の千早と幼馴染の太一は、再び会うことを目標にかるたを続けて高校生に。
高校生になった千早と太一は、かるた部を作ります。
そこに集まった仲間と共に、競技かるたを通して様々な人と出会っていくマンガです。

ちはやふるを読んだときに一番強く感じたのは、縦の人間関係のマンガだなあということでした。
黒子のバスケONE PIECE君に届けなどなど、最近の人気マンガは同世代間の絆をテーマに描かれたものが多く存在します。
この、同世代の絆をテーマにして描いた作品を横の人間関係と呼ぶとしたら、ちはやふるは世代を超えた繋がり、つまり「縦軸の人間関係」にスポットを当てた作品です。
このマンガを面白くしている理由の一つは、子供から老人まで、非常に広い年齢層のキャラクターと主人公たちが掛け合いをしているところにあるように思います。
高校生が部活に励むというテーマのマンガでは、ふつうどうやったって同世代間との駆け引きに落ち着きます。
しかしちはやふるの場合、競技かるたという年齢が関係なく戦う種目のため、同世代を超えたやりとりが可能になってきます。
そのため試合中のやりとりや、かるたを通した人の繋がりが他のマンガと比較にならないくらいに豊かになる。
若いからこそできる反射神経に任せた取りをする小学生から、歳を重ねたからこそできる経験と知識で戦うお年寄りまで、対戦相手のバリエーションが無数に存在します。
そのためどれも同じ試合であるはずなのに、25巻まで続いても全く飽きずに読むことができるのです。
これって、競技かるたという題材を最大限に生かしたちはやふるの強みだと思います。


もうひとつ、ちはやふるを読んでいて強く感じたのがおばあちゃん子、おじいちゃん子が多く出てくる作品だということです。
名人の周防久志にクイーンの若宮詩暢、千早と同じ耳の良さを持つ山城理音、そして新。
ちはやふるに出てくる強いかるたの選手の多くが、幼少期に祖父母とのエピソードが描かれています。
またそれ以外にも、よく勝ち残る選手として描かれるキャラクターほど、家族との繋がりがよく見えます。
初登場からしばらくして家族との関係が見える人物は、十中八九後半で何かしら見せ場が用意されている。
この辺、末次先生のくせみたいなものなのだと思います。
家族との繋がりも、前で言った縦軸の人間関係といえるでしょう。


競技かるたという、僕たちに馴染みの薄いテーマを扱っているのにここまで読者が入り込めるのは、キャラクターの特徴付けが非常にうまいからだと思います。
末次先生は本当に天才を描くのが上手いと感じます。
天才ならではの何処かが突出している代わりに決定的に何かが欠けているあの感じが、本当に上手く伝わってきます。
天才の空気感や振る舞いが非常にリアルに描かれている。
天才が雰囲気を上手く描かれているのに対して、努力型の人間はその内面の葛藤や考え方がリアルに描かれているように思います。
天才を見てどう思うのか、どうやって戦おうとするのか。
そういう「内的」な部分が努力型のキャラクターに感しては非常に細かく伝わってくるように感じます。
空気感を描くのが上手い天才型と、内面を描くのが上手い努力型のキャラクター。
天才に関してはよく「観察」していて、努力型についてはよく「知っている」という印象を受けます。
こうしたキャラクターをみると、末次先生は身近に天才がいて、それを越えようと頑張ってきた努力型の人なのかなあと思ったりしてしまいます。


いろいろ書きましたが僕が考えるちはやふるの1番の魅力は、ひとりひとりのキャラクターだと思います。
どのキャラも本当に細かく設定が作り込まれていて、場面場面で好きなキャラに感情移入することができる。
他のマンガと比べてもキャラクターが多く登場する作品だと思うのですが、被るキャラクターはひとりもいません。
だからこそ飽きずに読むことができるし、話数を重ねるごとに面白く感じるのだと思います。
そして最近薄れつつある縦軸の人間関係が丁寧に描かれているので、読んでいてほっこりすることができる。
この辺にちはやふるの人気の秘密があるように思います。

アイキャッチは「ちはやふる」1巻

ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)

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