新・薄口コラム

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



2010年龍谷大学一般B日程「平家物語」現代語訳

赤本に全訳が載っていないので、全訳を作ってみました。
内容の背景を捉えることを第一目標としているので、直訳とは若干異なるところがありますが、ご了承下さい。
順次赤本に全訳が載っていない古典の文章の訳をアップしていこうと思います。



 大納言佐は、目眩がして何も言えなかった。三位の中将は御簾に近づいて泣きながら、「去年の春には一の谷で殺されていたであろうこの身が、せめてもの罪の報いなのであろうか、生きながらえて捕まって、京都から鎌倉と長い距離を連行され、恥を晒さなければならないのも恥ずかしいのに、その上さらに最後には私を恨む奈良の僧たちの元に渡されて、斬られるのだという事でここにやって来たのです。なんとかしてもう一度お姿を見たいと思っていました。しかしあなたにお会い出来た今はもう、少しも思い残すことはありません。出家をしてあなたに私の髪の毛を形見として残したいと思うのですが、(囚われの身では)力及ばずそれも許されませんでした。」と言った。前髪を少しかき分けて、口元に届く部分の毛を切って、「これを形見として御覧ください。」と言って北の方の大納言佐に渡した。
 北の方は日頃からあなたの身を不安に思っていたのですが、この頃は一層悲しい思いがましておりました。「本当はあなたと別れました後に、越前の三位の上の様に入水して死んでしまうべきだったのかもしれません。しかしあなたが死んでもうこの世にいないとも聞かなかったので、もし奇跡が起きて、もう一度生きたあなたの姿を見ることができるのではないかと思っていたからこそ、辛く思いながらも今まで生きておりましたが今日いっぱいになってしまう事が悲しく思います。」と言いながら今まであった事無などをお互いに話し合う間中、お互いの涙が尽きることはなかった。「あまりにもあなたのお着物が濡れて萎れてしまいましたので、お着替えをしていって下さい。」と言って北の方が三位の中将にあはせの小袖と浄衣を渡した。三位の中将はこれに着替えながら、元着ていた着物を「これも形見に」と言って北の方に渡した。北の方は「それももちろん形見とさせて頂きますが、あなたの書いた詩こそ後の形見にさせて下さい。」と言い、硯を取り出した。三位の中将は泣きながら一首詩を書いた。
 とめることがどうしても出来ない涙がかかりわたしの唐衣の着物はすっかり濡れてしまいました。もう着ていくことも出来ないので、これを形見に置いて着替えてここを立つことにしよう。
それを受けて
 あなたが形見としてくれたあなたの着物を受け取ると、あなたと会えるのも今日限りということを実感します。どうしてこの着物を見ることで気持ちをなだめることなど出来ましょう、一層心が悲しくなるばかりです。
と北の方が返した。
「お互いに契があれば、生まれ変わった後の世でもう一度きっと会うことができるでしょう。同じ蓮の花の上に広がる極楽浄土に行けるようにとお祈りなさい。日も落ち始めてしまいました。奈良への道はまだはるか遠いのです。武士たちもこれ以上は待ってくれないでしょう。」三位の中将がそう言って出ていこうとすると、北の方は「どうか、どうか。もう少しだけ」と言いながら、中将の袖にすがって引き止めた。中将は「気持ちは十分にわかります。しかしもう逃れられる身ではございません。また次の世界で会いましょう。」と言って出て行ったのだが、本当にもうこの世で会うのは最後だと思うと、もう一度会いたいと思ってしまう。しかし心が弱くてはいけないと自分に言い聞かせて出発した。北の方は御簾の近くに臥して泣いていた。泣きむせぶ声ははるか門の外にまで聞こえたのだが、三位の中将を乗せた馬は離れて行った。中将は涙にくれて行く先も見えず、「かえって辛く思わせてしまった再会であったなあ」と今は悔しく思っていた。大納言佐である北の方はすぐにでも走って行こうとも思ったのですが、それもできないことであったので、着物を被って泣き臥した。

アイキャッチ龍谷大学2012年度赤本

龍谷大学・龍谷大学短期大学部(一般入試) (2012年版 大学入試シリーズ)

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