新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



高校生を悩ます『水の東西』はスーパーマリオを思い出すと理解が100倍早くなる!?

<「鹿おどし」が気だるさを感じさせる>という、何とも印象的な文句から始まる山崎正和さんの『水の東西』という文章。

多くの高校で1番初めの国語の授業で扱われます。

毎年テスト前になると生徒さんから「結局何が言いたいの?」とよく聞かれるので(笑)、僕なりの『水の東西』の楽しみ方をまとめてみたいと思います。

 

この文章を何よりも端的にまとめたものが見たいのであれば、2007年のセンター本試験で出題された、『日本の庭について』という文章の冒頭をみて欲しいと思います。

確か<日本の庭は時間とともに変化し、変化することが生命なのだ>みたいに書かれていました。

初めて見たとき、「山崎さんが30文字で片付けられている!」と笑いそうになりました。

『水の東西』の中に書かれる日本の庭について聞かれたら、とりあえずこの文章を言っておけば「コイツは分かってる」と思われるように思います(笑)

とはいえ、端的にまとまったものを丸パクリするだけでは全く理解したことにならないので、もう少し噛み砕いてみようと思います。

 

『水の東西』では、「同じ「庭」なのに日本と西欧の物って全く違うよね」、というところから、日本人と西欧人の感覚の違いが書かれています。

その代表が日本の「鹿おどし」と西欧の「噴水」です。

いろいろな子から話を聞いていると、鹿おどしに関して緊張の緩和が云々という説明が出てきた辺りから苦手意識を持ってしまう人がいるように感じるのですが、あれは動画と写真の違いで考えて貰うと理解がしやすいと思います。

鹿おどしは、動画で見ると動きがあるんですよね。

一方で西欧の噴水は何時間動画で見ていても同じ放物線を描いて水が吹き出しているだけ。

鹿おどしは時間が流れる中で変化を楽しむもので、写真で切り取ってしまえばあんな竹筒面白くもなんともありません。

一方で、西欧の噴水はいつ、どの習慣にみても同じ美しさがあるため、写真で見たときのような綺麗さがある。

一方で、時間とともに変化するわけではないので、動画でみても面白くありません。

ブリュッセルの小便小僧が動画で見たときに動きがあったら、それはもうホラーです。

写真のように永遠不変の美しさがそこにあるのが西欧の噴水、動画のように時間の流れのなかで初めて良さを感じるのが日本の鹿おどし。

こんな特徴を抑えておくと、『水の東西』は読みやすくなるように思います。

 

『水の東西』では時間の変化が盛り込まれた日本式の庭と、永遠不変の美しさを追求した西欧の庭が並べられていますが、「庭」について語られるときにもう1つのよくある比較に、日本の回遊式庭園と、西欧の風景式庭園という比較があります。

(確か2005年の京都の公立高校の入試問題がこんな題材だったと思うので、興味のある方はググっていただけたらと思います。)

日本の庭は動きながら順番に景色を楽しむものであるのに対し、西欧の庭は正面からみて楽しむものであるみたいな違いです。

こうした特徴を、チームラボの猪子寿之さんが以前、日本の庭は水平方向の移動に強く、西欧の庭は垂直方向の移動に強いという表現で語っていました。

確かに日本の庭は、(猪子さんはこの言い方を嫌いますが)レイヤー構造になっていて、正面からの視線にめっぽう強いので、鑑賞者が横に動いて楽しむ作りになっています。

龍安寺の石庭の、移動しても絶対に全ての石が見えないみたいな仕組みはまさにこの典型です。

それに対して、パースペクティブに作られた西欧式の庭は、横方向の動きにめっぽう弱い反対に、実際に真ん中から庭の中に入っていって鑑賞することができます。

いろいろな「庭論」をみたことがあるのですが、僕は猪子さんのこの説明が1番しっくりきました。

 

猪子さんの西欧と日本の庭の比較の話は、ここからスーパーマリオの特徴へと繋がります(笑)

僕たちは赤いオーバーオールのオッさんが横スクロールで動くのを当たり前のように楽しんでいますが、あれを初めてみた西欧の人にとっては、平面的な風景の画面を主人公が横に動くのは非常に衝撃的な作りであったそうです。

確かに言われて見れば欧米のゲームはシューティングゲームでもレーシングゲームでも、画面=プレイヤーの視点となり、そこから奥に向かっていくものがおおいように思います。

猪子さんはこれを水平方向の視線移動を計算して作られた日本の回遊式庭園と、垂直方向の視線移動に強い西欧の風景式庭園の違いと重ねて説明していました。

曰く、「水平方向の視線移動が極めて多い京都という土地に根ざした任天堂という会社が、横スクロールのゲームを生み出したのは当然のことである」とのこと。

(例によって詳しい言い回しは忘れましたが...)

 

『水の東西』を説明するつもりで話がグッとそれてしまいましたが、日本と西欧の庭を比較すると案外違うところが多く、それを追いかけていくとスーパーマリオにまでたどり着く。

そんな風にゆるーく『水の東西』という文章を捉えてもらえたら幸いです。

テスト勉強のために検索をかけてこのエントリにたどり着いたという人がいたら、全く役に立たないと思います(すみません...)

 

アイキャッチはよくわからないけれど猪子さんで検索したら出てきたインパクトのあるこの表紙(笑)

 

美術手帖 2011年 06月号 [雑誌]

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