2015年東京大学一般前期~「夜の寝覚」現代語訳
個人的に好きな、15年の東大で出題された「夜の目覚」の全訳を作ってみました。
内容の背景を捉えることを第一目標としているので、直訳とは若干異なるところがありますが、ご了承下さい。
順次赤本に全訳が載っていない古典の文章の訳をアップしていこうと思います。
※因みに過去問は東進の大学入試問題過去問データベース から入手可能です
姨捨山の月は夜が更けるほどに澄んでいくのだが、今見ている月もそれほどにめったにないものであると思いながら、女君は月をみて物思いにふけっていた。
(和歌)それまでとは自分を取り巻く境遇が変わってしまったこのつらい世の中に住む私ですが、見上げた空に浮かぶ月の光だけは当時のままなのですね。
しばらくは手も触れなくなっていた筝の琴を手元に引き寄せてかき鳴らしていたら、その場の雰囲気も相まって、松に吹く風の音につられるように、しみじみと思いつつ、ことを弾いて胃いた。
どうせ聞いている人もいないだろうと安心して思いつくままに弾いていると、仏の御前にいた入道殿はその音を耳にして、「本当に趣深く、言葉で形容しきれない音色だなあ」とその美しさに聞き入っていた。
あまりの素晴らしさに、入道殿は仏道修行を切り上げて、女君のもとへとやってきた。
女君が、入道のやって来たことに気付き演奏をやめると、「演奏をやめないで下さい。念仏を唱えていたときに聞こえてきた貴方の琴の音色がまるで『極楽の迎えが近いのだろうか』と思うほどに素晴らしく、心がときめかずにはおれず、あなたの部屋を訪ねてきたのです。」と入道は言って、居合わせた少将に和琴を弾かせ、また自身も一緒に琴を弾きながら遊んでいるうちに、気がつけば夜も明けていた。
女君はこのようにして心を慰めながら、一日一日を暮らしていた。
(和歌)つらいけれど気にせずにはいられないなあ。あなたの住む山里の時雨の音はどのようかと気になってしまうのです。
いつも以上に雨脚の酷い朝方に、大納言から歌が届いた。
雪が降り続く日に、思い出のないふるさとの空までも、雪で閉ざされているのではないかという気持ちになって、さすがに心細く感じ、部屋の端近くに移動して、派手な服装よりもかえって趣深い白い着物を懐かしげに着て、物思いにふけってその日を過ごしていた。
昨年、このように雪が多く降ったときに、大納言と屋敷の端で雪山を作ったことなどを思い出して、いつも以上に落ちる涙を可愛らしく拭い取って
「(和歌)あなた(女君の姉)は思い出すことはないでしょうけれど、私はこの嵐山で暮らすのが心寂しく、降る雪をみて、私のふるさとの景色はどのようだろうと、恋しく思っているのです。
恐らくあなたは私のことを、このようには思っていないのでしょうけれど…」と姉のことを思い出さずにはいられない女君の姿を、対の君は胸をつまらせながら眺めていた。
「苦しく感じながらも今までいろいろと考えていたのですね。さあ御前にいきましょう。」
と、そ知らぬ態度で女君の部屋入っていき、彼女を慰めた。
アイキャッチは東大の赤本
東京大学(理科-前期日程) (2015年版 大学入試シリーズ)
- 作者: 教学社編集部
- 出版社/メーカー: 教学社
- 発売日: 2014/05/22
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (1件) を見る