野良猫奇譚
珍しく人なつっこい我が家の飼い猫ソラ(上)と逃げはしないケド嫌悪感をあらわにする母の実家の飼い猫ナナ(下)
久しぶりに母方のばあちゃんの家に行った。
ばあちゃんの家にはナナというネコがいる。
爪を切るために病院に行けば自ら手を前に出し、お客の腕の中ではいつまでも大人しくしているという事で近所で礼儀のいいと評判のネコだ。
よく僕の実家にいるソラと比較される。
自分で言うのもなんだがソラは行儀が悪い。
ケガをして倒れていたのを母が拾ってきたのだがうちに来たばかりは野良猫そのものだった。
父があげようとしたエサには見向きもせず、ひょいと食卓に飛び乗って父のサンマを取って逃げていく。
そんなのが当然だった。
あの時の父の切ない顔は今でも覚えている。
ときが経つにつれ幾分大人しくなりはしたが、それでも未だに行儀が悪い。
ソラは人が食事をしているとすぐによこせと言ってくる。
食べ物を渡さないとすぐに噛み付く。
高2の時あまりにも噛み付くので指先にアロエを塗って待っていたことがある。
案の定ソラはオヤツをあげなかった僕の右手に噛み付いた。
その時のソラの顔は今思い出しても面白い。
有吉並に顔のパーツが近づいていた。
5年間ソラと暮らしていて唯一の白星だ。
まあそんなソラと比べると一層ナナの大人しさが際立つ訳だ。
本当にナナは行儀がいい。
周りの人びとはナナは一度も怒ったりした事がないと思っている。
しかし僕は一度だけ,本当にその時だけだがあの何をされても怒らないナナが本気で怒ったところをみた事がある。
それは夏の暑い日の午後だった。
ばあちゃんが廊下で股を広げて寝ていた。
その広げた股の間でナナは丸くなっていた。
すやすや眠っていたように思う。
やがてばあちゃんの頭の方からすさまじいいびきが聞こえ始めた。
僕と母のいびきのうるささはきっとここから来ているのだろう。
そんないびきに迷惑そうに目を覚ましたナナだったがそのときは怒りもせずそこでじっとしていた。
時が経ちばあちゃんの地鳴りは収まった。
そしてしばらくすると
「ぷぅぅぅっ~」 という音が聞こえた。
もちろん頭でなく尻からだ。
同時に 「ニャッッー!!?」 という叫び声が廊下に響いた。
股に挟まっていたナナには相当こたえたのだろう,振り向いた時にはナナの牙がばあちゃんの太腿に食い込んでいた。
今度は 「ぎゃっっー!!?」 という悲鳴があがる。
ばあちゃんが痛みで跳び起きた。
その時のばあちゃんは何が起こったのかわからないという表情をしていた。
それ以来ナナの怒った姿は誰も見ていない。
おそらく理由まで含めて怒ったナナを知っているのは自分だけだろう。
ナナを抱きながら僕はふと思いだし笑いをした。