新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



龍谷大学公募推薦対策!10年分の文学史を解説してみた①

古文の文学史が苦手という人をよく見かけますが、文学史は①コアになる知識と、②その知識の使い方を覚える事で対応できます。11月は公募推薦が近いということで、何回かに分けて龍谷大学文学史のポイント解説をしていきたいと思います。なお、この解説は龍谷大学の問題を解くのにあたって必要な知識に絞ってまとめております。学術的な厳密性や細かな知識よりも、問題を解くための情報を優先しているので、細かなツッコミはご容赦ください。

 


23年一般入試

落窪物語』とは成立した時代が異なるものを一つ選びなさい。
①『浜松中納言物語』 ②『曽我物語』 ③『宇津保物語』 ④『狭衣物語

 
〈難易度〉
1/5

〈解説〉
落窪物語」と聞いたら、a源氏物語以前に成立したb三大作り物語という情報を思い出したいところ。
三大作り物語は「竹取物語」「宇津保物語」「落窪物語」なので、正解は③

〈ここだけチェック!〉
落窪物語」が出てきたということで、源氏物語以前に成立した、三大作り物語と三大歌物語は抑えておきましょう。
①三大作り物語
竹取物語』現存する日本最古の物語。かぐや姫のお話。
『宇津保物語』琴の秘伝に関する物語。
落窪物語』継母いじめの物語。
②三大歌物語
伊勢物語在原業平をモデルにしたとされる。
『大和物語』伊勢物語と違い話ごとに主人公は異なる。
『平中物語』主人公の平中は平貞文を指す。

 

22年一般入試

 

狭衣物語』を説明したものとして最も適当なものを一つ選びなさい。
①『狭衣物語』は平安時代前期に成立した歌物語の一つで、『伊勢物語』に強い影響を及ぼした作品である。
②『狭衣物語』は平安後期に成立した作り物語の一つで、『源氏物語』の多大な影響が認められる作品である。
③『狭衣物語』は鎌倉時代前期に成立した歌物語の一つで、『大和物語』と同じく和歌に関わる物語を収めた作品である。
④『狭衣物語』は鎌倉後期に成立した作り物語の一つで、『竹取物語』と同じく非現実性の高い伝奇的な作品である。


〈難易度〉
2/5

〈解説〉
狭衣物語』は平安時代に成立した物語で、『源氏物語』の影響を強く受けた作品と言われる。したがって解答は②
源氏物語』以前の物語として覚えておきたいのは三大作り物語と三大歌物語の6作品。
したがって①は選んではいけない。

〈ここだけチェック〉
狭衣物語』主人公の狭衣が従妹源氏の宮に恋をする。源氏物語から影響を受けた。

 


21年一般入試

『みやぢのわかれ』は京都から鎌倉へ下る旅を描く紀行文学ですが、反対に地方を出発して京都を目指す旅を描いた紀行文学を一つ選びなさい。
①『土佐日記』 ②『海道記』 ③『十六夜日記』 ④『野ざらし紀行


〈難易度〉
3/5

〈解説〉
紀行文は旅日記のこと。選択肢のいずれもが旅日記。今回は「地方を出発して京都を目指す」がポイント。『土佐日記』がa紀貫之の作品で、b女性に扮して描かれた、c土佐から京都へ帰る55日間を描いた日記という情報から正解の①を導く。「鎌倉」というキーワードから『十六夜日記』を選ばないように注意。(『十六夜日記』は鎌倉へ向かう日記)

〈ここだけチェック〉
土佐日記』がa紀貫之の作品で、b女性に扮して描かれた、c土佐から京都へ帰る55日間を描いた日記
『海道記』鎌倉時代の紀行文。『十六夜日記』『海道記』『東関紀行』の3作品で三大紀行文と呼ばれる。
十六夜日記』鎌倉時代に記された阿仏尼の日記。裁判(所領紛争の解決)のために鎌倉へ向かう日記。鎌倉までの道中と、鎌倉での出来事が描かれる。
野ざらし紀行』江戸時代中期に松尾芭蕉によって描かれた紀行文。龍谷大学を目指すに当たって、芭蕉の作品としては『おくのほそ道』と『笈の小文』(おいのこぶみ)も覚えておきたい。

需要がありそうならできるだけ高頻度で更新していこうと思いますので、もし興味のある方は気長にお待ちください(笑)

 

 

 

中学生を悩ます魯迅の『故郷』のあらすじを1000字でわかりやすくまとめてみた

中学三年生の国語の定期テストで関門となる内容の一つは間違いなくこの魯迅の『故郷』でしょう。

テスト勉強が大変な理由の一つは文章量が膨大である点にあります。

これまでなら授業を聞いているだけで「何となくあらすじを覚えている」状態に仕上がっているため、直前の対策で十分に間に合ったのですが、これだけ長い文章になると、授業を聞いただけではあらすじを押さえられないケースが出てきます。

その結果、いつも通り勉強しているはずなのになんかしっくりこないという状況になるわけです。

こうした状況の場合、テスト勉強に入る前に、まずざっくりとあらすじを把握しておくことが大事になります。

なんとなくわかっている状態ができているから、その後の細かな把握ができるというわけです。

そこで今回は場面ごとに分かりやすくあらすじをまとめてみました。

これを読んだうえで学校のプリントなり問題集なりに取り組むと、テスト勉強が少しだけ楽になるのではないでしょうか。

 

【使い方】

・まったく文章が入っていないという人は、まずは太字の小見出しだけ追いかけて流れを確認してみてください。

・何となくわかっているけど自信がないくらいの人であれば、そのまま読み込んでいきましょう。

 

故郷への帰省


主人公は寒い冬の中、20年以上ぶりに故郷へ帰ります。荒涼とした村の様子を目にし、昔の活気を失った故郷に対して切ない気持ちを抱きます。幼少期の記憶にある故郷とは大きく異なっていることに、彼は寂しさを感じます。

 

家族との再会


二日目の朝に実家に到着すると、母と甥の宏児が出迎えます。母は主人公の帰省を喜び、昔のことを懐かしむ一方、故郷を離れなければならないことを語り合います。母はまた、かつての友人・閏土が主人公に会いたがっていることを伝え、再会の可能性を示唆します。

 

 

幼少時の記憶


閏土の名前を聞いて、主人公は彼と過ごした幼少期の思い出を振り返ります。当時、閏土は故郷の祭りで主人公の家を手伝いに来ており、二人はすぐに仲良くなりました。閏土が話してくれた田舎の自然や日常の話が、都会育ちの主人公には新鮮で、彼は閏土に強い憧れを抱くようになります。

 

楊おばさんとの再会


成長した主人公は、かつて豆腐屋で働いていた楊おばさんと再会します。しかし、彼女は以前とは異なり、貧しく年老いていました。彼女は主人公の成功を皮肉り、彼が自分たちを忘れたかのように振る舞います。そんな彼女の変化に、主人公は故郷の現実を改めて感じます。

 

閏土との再会


その後、主人公は成長した閏土と再会しますが、彼もまた貧しさと厳しい労働のために疲れた姿に変わっていました。閏土の手にはかつての若々しい面影はなく、荒れた手と疲れた表情が彼の苦しい生活を物語っています。二人は久しぶりに再会を喜び合うものの、かつてのような純粋な友情とは異なり、時間の流れや生活環境の違いが彼らの間に距離感を生じさせています。

 

故郷を離れる決意


最終的に、主人公は故郷を去ることを決意します。彼にとって故郷はもはや懐かしい場所ではなく、時の流れとともに変わり果てた現実を突きつける場所となってしまいました。

 

 

アイキャッチはもちろん「故郷」

 

 

 

KinKi Kids「むくのはね」プチ考察〜「羽根」に込められた思いの変化を探る〜

玉置浩二さんがKinKi Kidsのために書き下ろした「むくのはね」。
KinKi Kidsが司会を務める番組「堂本兄弟」に玉置浩二さんがゲストとして出演した際、即興でメロディが作られた瞬間の衝撃を覚えている人も少なくないのではないでしょうか?
「マイナー(コード)もいいけどあえてメジャー(コード)でいってみようか」
『硝子の少年』に始まり、『ボクの背中には羽がある』『スワンソング』など、マイナーコードの儚さ漂う名曲をたくさん持つKinKi Kidsにあえてメジャーコードで始まるという玉木さんの粋な計らい。
その後2ヶ月ほどかけて書いたというこの曲の歌詞は玉置浩二さんがKinKi Kidsの足跡を思いながら書いたのだそうです。
その曲のタイトルが『むくのはね』。
KinKi Kidsで「はね」と聞いてまず思い浮かぶのは『ボクの背中には羽根がある』だと思いますが、二つの中の歌詞を比較するとそこには大きな変化が伺えます。
-ずっと君と生きてくんだね ボクの背中には羽根がある どんな辛い未来が来ても 君を抱いて空も飛べる-
ボクの背中には羽根がある」では君のことを守ってみせると歌っていたのに対し、『むくのはね』では次のように言っています。
-何年も何十年も 優しい気持ちのまま見つめているよ-
守って上げる存在からずっとそばにいることを違う存在へと変化した羽を持つ主人公の価値観。
これは大人になったKinKi Kidsの二人だからこそ歌える歌詞のように感じます。
もう一つ、「となりにずっといる」というメッセージはどこかKinKi Kidsの二人の関係性に重なります。
若い頃はなんとか頑張ろうと二人で必死に羽ばたいてきた二人が、時を経てずっと隣にいることが一番といえる関係性になった。
そんな二人は昔からずっと変わらず無垢なままである。
この曲からは玉木さんの目から見た二人の関係性が伝わってくるような気がします。
守ることからただ側にいることが愛だと歌う『むくのはね』は二人が歳を重ねるごとにさらに味わいが深まる名曲だと思います。

 

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UNISON SQUARE GARDEN『傍若のカリスマ』考察〜歌詞が伝えたい「勝つため」に最も必要な要素は何?〜

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アニメ『ブルーロック』のテーマソングとなったUNISON SQUARE GARDENの『傍若のカリスマ』。
タイトルは人前をはばからず勝手に振る舞うさまを表した傍若無人と、人を惹きつける才能を持ったカリスマを結びつけたもので、サッカーというスポーツを通して才能を突き詰める様が描かれるアニメブルーロックを彷彿とさせます。

この曲の作曲者でもある田淵さんが思う勝負における最も大切なものは何なのか?
それは「残ったやつを希望と呼べ」という言葉に表れているように思います。
「残ったもの」「希望」と聞いて頭に浮かぶのはギリシャ神話に出てくるパンドラの箱のエピソードです。
パンドラが好奇心からゼウスに渡された箱を開けた結果、人間界に様々な災いや悪が飛び出したが、その最後に箱の底に残ったものが「希望」だったというギリシャ神話のエピソードを踏まえるならば、傍若無人に見える振る舞いの先につかみ取れるものが希望というところでしょう。
第一線で戦い続ける人間にとって時に周囲に誤解されるような向き合い方も必要になってきます。
そうしたあらゆる泥臭い努力の先につかみ取れるのが勝利という希望というわけです。
こうした思いを象徴するのが次の二つの引用です。
「君子危うくて接近中」
「孫氏崩れ去る現代戦」
前者は賢い者は危ない出来事には初めから近づかないという意味を持つ「君子危うくに近づかず」を、後者は最古にして最高と言われる兵法書を書いた孫氏を表している訳ですが、この歌ではそのいずれも通用しないという使われ方をしています。
最後の最後に信頼できるのは昔の教訓や王道の戦略でなく、自分の培ってきた感だけである。
そんな決意が伝わってきます。
では最後に必要になる力は何なのか?
田淵さんは「and going!」という言葉に隠れた「エゴ」という響きに託したのではないかと思います。
全力で戦った最後に勝ちを掴み取るために必要な者は自分の強い思い=エゴである。
だからここ『傍若のカリスマ』というタイトルなのかなと。
難解なメロディに乗せて僕たちに届けるメッセージにはUNISON SQUARE GARDENならではのかっこよさと熱くなるものがあるように思います。

物語の構造から「逃げ上手の若君」の最終話を予想する

最近『逃げ上手の若君』という作品にはまっています。
鎌倉時代末期から南北朝時代に活躍した北条時行をモデルにした作品なのですが、キャラクターの個性を作り出すのが圧倒的に巧みで、何より悪魔的なカリスマ性を描かせたら天才的な松井優征先生が歴史を題材にして作品を描くとここまで面白いものになるのかと圧倒されっぱなしです。
現在連載中の週刊少年ジャンプ(2024年10月17日)では1340年あたりまでの様子が描かれているわけですが、史実にもとづけばここから大分時間が飛ぶように思います。
そうすると最終回も意外と遠くない(といってもまだ何年も先だと思いますが)のではないかということで、一ファンとして、この作品のすごいと思った点を紹介しつつ最終回について妄想を膨らませてみようと思います。

 

初めからラスボスを描くことの難しさ


僕はこの作品を最初に読んだとき、『バクマン。』で言っていた「初めからラスボスが出る作品の難しさ」という話を思い出しました。
ワンピースやドラゴンボールのように、序盤のうちは次々と敵が現れては倒していく構成にできる作品では、仮にボスキャラの人気がなかったとしても次のキャラクターを投入できるが、初めにラスボスを登場させる場合、そのキャラクターの人気が出なければ作品そのものが沈んでしまうというお話なのですが、歴史を題材にする場合、この構造からは絶対に逃れられません。
最期の敵が決まっているどころか、同じキャラクターを何度も登場させて戦わせなければならない。
そうした繰り返し登場する敵キャラクターの一人でも読者の共感を得られなければ、この作品は成立しなかったわけです。

そんなある種リスキーな題材なのですが、個人的には松井先生にはぴったりなテーマであるようにも思いました。
というのも、松井先生はカリスマ的な才能をもつ存在(特に敵)を描くのが初連載の時からずば抜けてうまかったからです。
『魔人探偵脳嚙ネウロ』ではXやシックスといった悪、『暗殺教室』では理事長先生や死神といった敵と、とにかく悪のカリスマを描くのに長けた印象でした。
そんな松井先生だからこそ、絶対的なラスボスとしての足利尊氏というモチーフはぴったりなんじゃないかなと思ったのです。
『魔人探偵脳嚙ネウロ』では少し残虐すぎる思想の敵キャラが多かったのに対し、学校をテーマにした『暗殺教室』では一作目の持ち味だった残虐性をグッと押さえてカリスマの部分を引き出すキャラづくりに徹した印象でした。(学園物で度を越えたグロデスクは描けません)
そこにきて武将の合戦というテーマはまさにその両方の良さを引き出すテーマだなと。

 

終わりが決まっている作品を終わらせる難しさ


僕が『逃げ上手の若君』の最終回に興味を持っているのは、歴史を題材とした作品は終わりが決まっているという点にあります。
どう登場人物を動かしても、歴史上の要所は外せないですし、まして最期は決まってしまいます。
北条時行であれば1353年にとらえられ処刑されたとされているため、どうやってもそこが物語のラストになってしまうわけです。

さて、こうした終わりが決まっていることに加えて、この作品だと主人公の最期が気になります。
これが青年誌や教育漫画的な歴史漫画なら史実に忠実に時行の最期を描けばいいかもしれませんが、少年漫画で、しかも天真爛漫なキャラクター設定のこの作品では、なかなか主人公の「死」をクライマックスに持ってくるのは難しいように思います。
漫画でも小説でも映画でもそうですが、ポジティブな作品において「主人公の死」をクライマックスに持ってくる場合、そこに何かしらの納得できる理由が不可欠だからです。
例えば主人公の死がハッピーエンドとして成立する場合の典型としては次の2パターンがあります。

 

①主人公の動機が成仏した場合
②主人公が次のものに意志を託した場合
③主人公がの命と引き換えに世界の平和がもたらされる場合。

 

一つ目の場合はたとえば父の仇を討ったとか、目的を果たしたとかいうパターンです。
読者の誰もが納得する形で主人公の行動の理由が達成された場合を僕は(岡田斗司夫さんの言葉を借りて)成仏すると呼んでいるのですが、一つ目の場合はこれに該当します。

二つ目の場合は自分の意志がしっかりと次の世代に託された、あるいは自分の死が次の世代の成長のきっかけになる描写が描かれた場合です。
この典型がまさに松井優征先生の『暗殺教室』でしょう。
殺せんせーの死が生徒たちの成長のトリガーとして機能することで、その死が読者にポジティブに受け取られています。

三つ目は自分の命と引き換えに世界の平和が手に入るという、最終回で主人公の命が世界平和の生贄として機能するパターンです。
この場合、悲しくはあるけれど平穏な世界が訪れたという読者の納得が得られます。
『RAVE』や『まどかマギカ』、最近だと『約束のネバーランド』あたりがここに含まれると僕は考えています。(それぞれ絶妙な派生形ですが…)

主人公の死をバッドエンドにしないためには、この辺りのパターンしかないように思うのです。

 

逃げ若の構造に最終回のパターンを当てはめる

さて、これを踏まえて『逃げ上手の若君』の構造を見ていこうと思うのですが、まず、①の主人公の動機が成仏というのは史実に照らし合わせても難しいように思います。
北条家の復権と打倒足利尊氏が主人公時行の願いなのですが、これらをゴールにすることが史実として不可能です。
そうするとどうあがいても志半ばで亡くなることになってしまうので①は物語の構造上成立しません。

次に②の意志を後世に残すパターンです。
実は『魔人探偵脳嚙ネウロ』では主人公桂木弥子を一人前にするためネウロが精根はてて魔界に帰るという形で、『暗殺教室』で主人公渚が殺せんせーの死をきっかけに一人前の先生になるという形でこの構造を取り込んでいて、松井優征先生が得意とするパターンであるように思います。(ちなみにどちらも③の要素も含んでいるのが松井先生のすごいところ)
しかし今回の『逃げ上手の若君』では、主人公は主君であり、むしろ様々な恩師から願いを託されるという形をとっているため、この構造には持っていけません。(それどころか最新話では嫁をとることで死ねない理由まで加わりました)
こうした点を考えると②に持ち込むことも難しいでしょう。

最期に③のパターンですが、こちらも北条時行というキャラクターと史実という制限がある以上難しそうです。
そうするとどうしてもバッドエンドか、それ以外のトリッキーな終わりを持ってくるしかないように思うのです。

 

いろいろな作品の主人公の最期を参考に考える


ハッピーエンドの終わり方が難しそうということで、今度は「死」が最後にくる作品の結末をいくつか挙げて考えてみたいと思います。
①~③に挙げた形以外で主人公の死が最終回に来るということで僕の頭に真っ先に浮かんだのは『BANANA FISH』『闇金ウシジマくん』『DEATH NOTE』でした。
これらの作品は主人公の死をもって物語が簡潔しているのですが、それぞれが悪として存在していたため、「死ななければいけない理由」が存在しているといえます。
当然感情移入して読んでいる読者からすればそれをハッピーエンドと呼ぶことは難しいですが、物語世界として考えれば納得できる結末です。
しかしながら『逃げ若』にこの結末を適用することが可能かといえば、そもそも悪として書かれていない時行をこの結末に持っていくのはどうやっても不可能でしょう。

他には主人公の死が確定していて最終話まで描いた作品としては、『遮那王義経』がありました。
源義経の生涯をベースに描かれたこの作品ですが、初めの物語の仕掛けとして義経が変わり身の少年であることにされています。
その上で史実としては死んだとされるところで死を偽造して生き延びたという結末を採用したのがこの作品ですが、そこには「郎党たちの勇姿を後世に残したい」という思いを軸に現世まで歴史書が伝わるという締め方がされていました。
もちろん時行にも生き延びたという説が存在するためこれに近い最終回も可能です。
しかし、同じ歴史漫画ですでに行われた結末を採用するかといえば、なかなか難しいように思います。
また「逃げ上手」という特性を生かして「主人公のその後はひっそりと生き続けていたようだ」という結末もきっちりと作品をまとめてきた松井先生の作風的に個人的にはあまり考えられないように思います。

 

消去法で残ったパターンから結末を絞り込む


バッドエンドは好まれない、主人公の明確な悲運の死は描けない、史実に大きく逆らえない、逃げ延びたという説は直接的には使いづらい、打ち切り形式の途中終わりは難しいという縛りのもとでできる結論を考えるとかなりパターンは絞られてくるように思います。
もちろんそうした条件を設定した上でできるパターンを考えると、僕は次のような結末になるのかなあと考えています。

 

①処刑されるのは影武者
②時行は最後に何か尊氏に爪痕を残す
③ベースは『鬼滅の刃』方向の結末

 

まず①ですが、作中で逃げ上手が繰り返しテーマになっていたことと、歴史に名を残さぬ英雄として取り扱われていることから、やはりこの方向性で描かれるように思っています。
次に②は史実を踏まえるとここから先、1958年に亡くなるまで苦戦を強いられています。
この転機となった部分に時行との最後の接触を持ってきて、時行の剣か何かで神がかった力が失われたという方向にするのが漫画の演出としては納得度が高いと思うのです。(尊氏の背中にあったとされる腫れ物を子のトリガーに使うのかなというのが個人的な予想です。
ただこれでは結末として弱すぎる、というか打ち切りタイプになってしまいます。
そう考えたときに気になったのが、特に物語の序盤によく出てきた未来予知の現代の姿や。要所要所の登場人物に出てきた「現代に生きたならば」という描写です。
直接的にストーリーに関係しないあの場面が、最終話の伏線になっているのではないかと思うのです。
時代は流れて現代にも時行やその郎党、あるいは尊氏など敵方も含め、全員の面影がある人物を登場させて今の暮らしは彼らの奮闘の先に続いているということ、名もなき英雄がたくさんいたように誰もが名もなき英雄であるみたいな描写が描かれる。
んで、最後に古文の教科書の太平記のページがパラパラと風に揺られて開き、時行の名が刻まれている場面で終わるみたいな形になるのかなというのが僕の予想、というか妄想です。

もちろんこれは外れて当たり前ぐらいの妄想ですが、歴史を扱った作品は結末が決まっているからこそこういった妄想にふけることができて、それもまた楽しみの一つであるように思います。
ここからますます期待値を上げている『逃げ上手の若君』。
今後の展開が本当に楽しみです。
皆さんはどのような展開を期待しますか?

 

アイキャッチはもちろん逃げ上手の若君

 

 

 

HUNTER×HUNTERが連載再開したので物語の構成から今後の展開を予想する

もうすぐ待ちに待ったHUNTER×HUNTERの連載再開ということで、ここまでの展開を思い出すために単行本を読み返していました。
38巻にある旅団結成秘話の書き足しシーンでパクノダが自分の能力について制約と誓約を決める際に「この先ずっと一番大切な人に触れない」と決めるシーンで、漫画のページを透かして見ると裏面にあるクロロの後ろ姿がちょうどそのセリフの場面が完成するように仕掛けられているのを見た瞬間に僕はもう魅了されました。

 

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そんなことから始まり、改めて読み返して今後の展開で気になっていたことをいくつか思い出したので、気になった点と今後の展開についての僕の予想を備忘録がてらまとめて行きたいと思います。

 

○王位継承編で気になっていること


ただでさえ難しい作品の中で過去一の人数が登場してとんでもないことになっている王位継承編ですが、細部まで作りこまれていてすごい読み応えです。
まず王位継承編で僕が気になっているのはマフィアの人たちが「均衡」を大事にしているという描写です。
誓約と制約だったり、欲望と共依存の等価交換だったり、「我々は何も拒まないだから奪うな」という流星街のメッセージだったり、何かとバランスに対する言及がよくあるこの作品。
個人的には冨樫さんという作家がそういう部分の整合性にすごくこだわる人であるように思っています。
そんなわけで「均衡」という言葉が出てきた時から気になっていました。

マフィアの言う「均衡」の中には念というものの存在を無用に広めないというものが含まれています。
幻影旅団はその念の存在を隠す=均衡を保つ気がないから危険だという描写も。
僕はこの「念の存在を広めて均衡を崩す」という描写を見た瞬間にクラピカの存在を思い出しました。
下の階層で念の存在を隠そうともしない幻影旅団のメンバーですが、同じく王位継承戦が繰り広げられる第一層で防衛のために念を教えるクラピカも同じく「均衡を崩す存在」と言えそうです。

何かと対比して描かれることの多い幻影旅団(というかクロロ)とクラピカ。
ここでの対比は非常に気になりました。

 

○壺中卵の儀と蠱毒


次に気になっているのが壺中卵の儀です。
カキン王国の王位継承戦で行われる儀式で、各王子は壺の中に血を落とすことで守護霊獣を手に入れるわけですが、説明では初代国王が蠱毒から着想を得たという描写がされています。
蠱毒とは中国の呪術の一種でざまざまな虫や爬虫類などを壺に閉じ込め戦わせ、残った一匹を蟲として取り出すというもの(呪術廻戦の夏油の極ノ番やワンピースの黒髭がインペルダウンで仲間を選ぶ際にやったことが同じモチーフでしょう)なのですが、この壺中卵の儀はそのまま王位継承戦のモチーフとなっているのでは無いかと思っています。
王位継承戦で敗れたものの亡骸は安置所のようなところのカプセルに入れられるように描かれていましたが、それらは円盤上に配置されており、中心にある物体と繋がっている描写がされていました。
これがちょうど蠱毒のモチーフなのかなと言うのが僕の見立て。
作中では守護霊獣はそれぞれの王子の欲望を忠実に再現した形で描かれていました。(ちょうどキリスト教七つの大罪と四終みたいなデザインに感じました)

 

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とすれば、残った一人にそれらの欲望が集約されるみたいな設定なのかなあと。
また、もう一つ視点を広げるとブラックホエール号自体が蠱毒のようにも感じられます。
ブラックホエール号に乗っている人たちはカキン帝国の国王の呼びかけで集まったものたちですが、彼らの命そのものも儀式の何らかの糧になるのかなというのが僕の予想。
作中でも稀に見る人数を描いたこの場面ですが、キメラアント編、会長選挙編あたりから能力のインフレがしすぎたようにも思います。(というかキャラ同士の力のバランスに矛盾がありそう)
ブラックホエール号は、本番の暗黒大陸に入る前にそうした実力や能力のバランスが崩れたキャラクターたちを一掃する装置としての役割も担っているんじゃ無いかなと(もちろんビスケを始め人気キャラの全員が死ぬわけでは無いと思いますが...)

 

蠱毒と孤独


もう一つ「蠱毒」というモチーフから個人的にあるんじゃ無いかと思っているのは「孤独」というテーマだったりします。
制約と誓約のように蠱毒同音異義語になる孤独という言葉。
僕は以前から二人の死はクロロとクラピカの対称性×孤独という掛け算に落ち着くのでは無いかと思っていました。
クラピカの場合は一族を殺されていることで孤独からスタートしています。
一方クロロは終始仲間がいる状態で、作中にも非常に仲間を大切にしているさまが描かれてきました。
僕はこの二人がそれぞれクロロの場合は仲間を全て失うという形で、クラピカの場合は心から信頼できる仲間という意識を得た瞬間、「孤独」に陥ることで死んでいくのではないかと思うのです。

 

〇旅団とクルタ


旅団とクルタ族に関しても前回の連載で様々なことが明らかになりました。
この場面の中でも僕が特に気になったのは、殺されたサラサの場面に出てきた二つのメッセージと目が隠されていたことでした。
袋に入ったサラサの顔にはメッセージが貼ってあったのと、エンバーミングされた死体の目が閉じていたことでサラサの目は見えないようにされていました。
劇場版特典で配布された第0巻のキーパーソンとなってクルタ族の村の近くにいたシーラが、復讐を決意したクロロを残し意味ありげな顔で仲間の元を離れる場面も描かれていたので、サラサはクルタ族との関連があるのではというのが僕の見立て。
加えてサラサが吹き替えを担当するカタヅケンジャーの担当はクリンオレンジ。
わざわざ「オレンジ」をメンバーカラーにしていることは「緋色の目」のメタファーではないのかなと思うのです。
そしてクルタ族虐殺の場に残されていた「我々は何も拒まない。だから我々から何も奪うな」というメッセージからは「拒まずに受け入れたのになぜそれを奪っていったんだ」というニュアンスが含まれるように感じます。
これはクルタ族の誰かがサラサを捨てた、もしくは里抜けしたクルタ族の子がサラサみたいなことの伏線なのかなと思ったり。
どこまでも妄想の域を出ないのですが、そんな風な設定があるのではないかと思っています。

これらを踏まえた僕の仮説は次のような感じ。
サラサは残虐な殺され方をしていて、木に張り付けられていた方の張り紙には殺した時の実況中継的な内容(その後のクロロの「犯人は自分の作品を投稿したがる」という旨の発言から)に加えて、サラサを惨殺する中で緋色の目になったことが記してあったorクルタ族の報復であった胸が書かれていた。
そしてそれをシーラは読めた(ディノハンターの夢もあり自分は単独で緋色の目を追う決意orサラサの緋色の目について知っていてそれを第三者に漏らしてしまっていたのでサラサの死に罪悪感から別行動)
袋の中のサラサの顔に貼られたメッセージには、ウボォー始め仲間に伝えたら激情して後先考えずに突き進むような内容orそれを見たら自分たちを責めるようなつらい内容が書かれていた。
(「拷問中にサラサが助けを求めていた」「最後まで泣かなければほかのやつには手を出さないと言ったら必死に頑張っていた」etc…)
旅団が宝を盗むのは自分たちが作る犯人捜しのダークウェブで流通させて、サラサ殺しの犯人が現れるチャンスを増やすため。(ヒソカが言った「団長は盗んだものを一通り愛でたら売り払うというのはこのウェブに流しているのでは?」
クルタ族を虐殺したのはサラサの惨殺の根本原因(両親が里抜け的な「外界に触れる」以上のタブーを侵したことへの罰的な理由でサラサの殺害を依頼など)があった、かつ緋の目のダークウェブ流出は人体収集家を集めやすいから。(もしくはサラサの目を取り戻すことが目的?)
ウボォーのクラピカとの戦闘時の反応的にクルタ族への恨みはなさそうなので、クルタ族の罰という線は薄いorクロロがそこを誰にも伝えていなかった。(目的はあくまで「実行犯」であって、クルタ族はそれを追うためには手段)

さて、他にもメモしておきたいことはたくさんあったのですが、すでに3000字を超えてしまったので今回は一旦ここで区切りにしたいと思います。
複雑故に多様な解釈のできるこの作品。
みなさんはどのような展開を予想していますか?

 

アイキャッチはもちろんHUNTER×HUNTER

 

 

 

King Gnu「SPECIALZ」プチ考察〜多用されるスラングに見るアニメとの共通点〜

アニメ『呪術廻戦』第2期のオープニングテーマとして書き下ろされたKing Gnuの「SPECIALZ」。
曲全体から漂う混沌としたイメージでKing Gnuらしさ全開の一曲です。
さて、そんな聞いた人に強烈なインパクトを与えるこの曲ですが、歌詞を見ていくと英語のスラングが多用されることに目が止まります。
まずタイトルがSPECIAL"Z"であることから始まって、U R MY SPECIAL(YOU ARE MY SPECIAL)と表記してみたりi luv u 6a6y(i love you baby)としてみたり。
また英語のスラング以外にも氣裸氣裸血走ります(キラキラ血走ります)と言った日本語の当て字も登場します。
こうしたスラングや言葉遊びを織り交ぜながら作られた歌詞の中でも取り分け目を引くのが次の箇所でしょう。
"get 1○st iπ 31"
ここはスラングではなく作詞者の言葉遊びで完全なる造語なわけですが、正確な英語に書き換えるならば"get lost in me"で、直訳すると「私は自分の中で迷ってしまった」となります。
ここでは「自分を見失ってしまった」くらいに意訳するのがいいでしょう。
ちょうどこれは呪術廻戦における、圧倒的な強さゆえに周りに壁を作って「最強」になった五条悟にも、自分の信念を持って悪の道に堕ちた末に羂索に身体を奪われた夏油傑にも重なります。
実際にここの言葉遊びはget 1○→夏油(ゲトー)、五条悟の無下限呪術を示すかのように使われる無限小数のπ、そして2期の作中で最大の事件である渋谷事変が起きた10月31日を表すような1○と31があることで、彼らを暗に示しています。
たった一行の言葉遊びでアニメの中で起こる出来事、そしてそうならざるを得なかった二人の内面を表現しきるところがKing Gnuの神がかり的なうまさだなあと感じます。
今回は言葉遊びの部分を中心に見てきましたがそういった部分を抜きにしても曲としてかっこいい「SPECIALZ」。
本誌では残り3話で完結とのことです。
この曲を聴きながら世界観に没入して最後まで楽しみたいところです。

 

アイキャッチはもちろんKing Gnu