新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



5段 2006年関西大学文学部「夜の寝覚」現代語訳

赤本に全訳が載っていないので、全訳を作ってみました。
内容の背景を捉えることを第一目標としているので、直訳とは若干異なるところがありますが、ご了承下さい。
順次赤本に全訳が載っていない古典の文章の訳をアップしていこうと思います。

また翌年の8月15日になった。その年、中の君は14歳になりなさった。早朝から雨が降っていたので、きっと月も出てこないだろうなあと残念に思いながら物思いにふけりながら一日を過ごしていた。夕暮れどき、風が強く吹いて、去年の夜よりも空が澄んで、明るくなった。父である源氏の太政大臣は今夜、内裏で詩歌を作る遊びに参上していたので、屋敷が静まりかえっていた。中の君は端近くまで御簾を巻き上げて、まだ夜のうちにはいつもの筝の琴を弾いて、人も寝静まった夜更けすぎになったところで、琵琶を昨年夢の中で天人に教わったとおりに弾いた。その琵琶の音を聞いた姉の姫君は、「いつも聞いている筝の琴よりも優れて聞こえます。お父上(源氏の太政大臣)がとりわけ私に琴を教えてくれるのだけれど、いつもたどたどしくて、弾ききることもできないものを、あなたはすばらしい音色で弾きなさることができるのですね。」と妹のことの音色を聞いて、姉の大君は驚き、そしてうらやみなさった。
中の君がいつものようにお休みになっているときに、去年と同じ天人が、夢の中に出てきた。天人は「教えたものにもまして、趣のあることの音色ですね。これらの譜面(譜面)を聞き知る人はいないでしょう。」と言って、中の君に残りの5つを教えた。「中の君のように惜しい人が、これからいろいろ思い悩み、心を乱してしまう宿命にあるものなのですね。本当に哀れなことです。」と言って、夢の中の天人は去って行った。中の君はそこで夢から覚めると、その譜面を少しも滞らずに弾くことができた。この出来事に中の君は驚き、思い余って、姉の君に「夢の中で私に琴を教えてくれる人がいるのです。」と申し上げるのだけれど、かえってうまく状況を伝えることがおできにならない。
また翌年の8月15日になった。月を眺めながら、琴、琵琶を弾きながら、格子を上げたまま寝入ってしまったのだけれど、今度は夢で見ることはなかった。目が覚めると、月は明け方に近づいていた。悲しく、残念に思って琵琶を引き寄せて、
天の川原に続く、雲の通い路が閉じてしまったのでしょうか。月の都の人も尋ねて来てはくれなくなってしまいました。
朝方、日の明ける際の風にあわせてお弾きになった音の、言葉ではあらわせないほどに素晴らしいのを、父の源氏の太政大臣が琴の音を耳にして目を覚まし、「不吉なほどに立派で、美しい音色だなあ」と申し上げた。
姉の大君は中の君よりも5つばかり年上で、なにかにつけて大人びた様子であった。源氏の太政大臣も、娘の大君の将来を「どのようにご準備申し上げようか。」と、思い悩むことがたびたびあった。「このごろの宮中には、関白をしている左大臣の御娘で、東宮のお母さまで、后でいらっしゃる人と、私の兄の式部卿の宮の娘、承香殿の女御と申す方が、ともに帝の寵愛を非常に強く受けていらっしゃる。そうした中で宮中に仕えたところで、末端の存在となってしまうでしょうし、それならばどうしていいことがあるでしょうか。だからと言って、帝のご子息の東宮はまだ幼子でございます。大君は一体だれの嫁として嫁がせるのがよいのだろう。」と思っているときに、左大臣の長男が浮かんだ。容姿も内面も、全ての才を併せ持っており、この世に余るほどのその才能は、世の光と称され、公私ともに思いあがめられる人です。年もまだ20歳に満たないほどで、権中納言となり、中将を掛け持ちで行っています。また、関白殿が可愛がっている息子で、后の兄、東宮のおじでもあり、行く末も頼もしく、素晴らしい。それに加え、このような全てが思い通りにできるような立場でありながらも、おごる心、人を軽んじる心もなく、非常にめずらしいほどに身振りをわきまえていらっしゃるので、源氏の太政大臣は、「帝の御母、あるいは后の座を除けば、この左大臣の息子の妻の座に着く事が、大君にとってもよいことだろう。」と考えた。その旨を左大臣に伝えたところ、「どうして帝の娘のほかで、この大君よりも素晴らしいお相手などがいましょうか。将来のことも不安なく、安心して見守ることができる良縁でございます。」と二人の結婚を了承した。源氏の太政大臣の胸中では、妹の中の姫君に気持ちは傾いていたが、姉の年齢のこともあり、まずは大君の縁談をと思い、8月の1日を目標に、結婚のご準備を進めました。