新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



8段 2005年関西大学文学部落窪物語現代語訳

赤本に全訳が載っていないので、全訳を作ってみました。
内容の背景を捉えることを第一目標としているので、直訳とは若干異なるところがありますが、ご了承下さい。
順次赤本に全訳が載っていない古典の文章の訳をアップしていこうと思います。

 

落窪の君の侍女は少納言が来ているのだろうと思い、また、夫の帯刀(たちはき)の具合が悪いのもあって、少しの間だけと思い、自分の部屋に戻っていった。落窪は下襲を縫い終わり、袍を折ろうとした。衣を折る人手が必要で、「何とかしておこきを起こそう。」と思っていたところ、少将が「私が布を引きましょう。」と言った。落窪は、「こんなご立派な少将が裁縫の手伝いをするなんて、見苦しいことです。」と言って断ったのだが、少将は几帳を戸のほうに立て、起きて「やはり私に手伝わせてください。私は素晴らしい裁縫職人なのですよ。」と言い、落窪に向かい合って座り、一緒に着物を折った。たいそう自然な様子で手伝いを申し出た少将ではありますが、あれこれと気遣いをしなければいけないことが多すぎて、少将からの申し出は、かえっておせっかいなことであった。落窪はそんなことを思い、微笑みながら着物を折っていった。
 「夜もたいそう更けました。縫い物もまだまだ多いことですので、もう寝なさい。」。そう言って落窪を責めたのだけど、「もう少しで終わりそうです。お先に寝てしまってください。私は縫い終えてからにします。」と言って聞かなかった。「ひとりで起きているつもりなのですか。」と驚き、少将も寝ないでいると、継母の北の方が「落窪のやつは縫うことをやめて寝てはいないだろうか」と思い怪しんで、寝静まった様子の部屋を、いつものようにものの隙間から覗き見すると、そこに少納言はいなかった。目の前に几帳が立っていたので、別の角度から覗いてみると、落窪はこちらに背を向けて、持っている着物を折っていた。向かいには男がいた。継母は重いまぶたもすっかりと覚め、驚いて見たところ、たいそう清らかな白い袿を着て、その上に掻練の山吹色で非常につややかなものを羽織り、ほかに持っていた着物は、女が裳を着るように腰の下あたりに巻きつけていた。灯りのたいそう明るい火影に揺れて、非常に見ていたいほど清らかで、かわいらしさがあるようだった。落窪の父の中納言の娘婿である蔵人の少将にも勝って素晴らしく見えたので、北の方の継母は困惑した。「以前から落窪に男ができた様子はあったけれども、どうせ悪くはない程度の男だろうと思っていた。しかし実際に目にしてみると、落窪の元に通っている男は、全くもって只者ではないように見えます。あのように落窪に寄り添って、女のする裁縫を手伝うなど、並大抵の思い入れではありますまい。非常によくないことだ。もしふたりの仲が成就すれば、私は次第に落窪に身分の面で敵わなくなり、今までのような仕打ちができなくなってしまうだろう。」と思ううちに、落窪が裁縫をしているかを確認しにきたことなどすっかり忘れて、妬ましさにしばし立ち尽くしていた。不意に少将が「慣れないことをしてすっかり疲れました。あなたも眠たそうに見えます。やはり、もう縫いかけのまま寝てしまいましょう。継母の北の方など、起こらせておきなさい。」と言った。「怒る姿を見ることもつらいことですので。」と言い、落窪はなお縫い続けていると、少将は我慢ができなくなり、少将は灯りを吹き消してしまった。落窪は「なんて無理やりな手法をとるのでしょう。片付けさえしていないのに。」と、たいそう困った様子でいると、「ただ几帳に掛けておけばいいでしょう。」と言って、少将は自分の手で着物をかき集めて几帳に掛けて、落窪を抱いて、寝てしまった。
 継母の北の方は、二人の会話をすっかり聞いて、たいそう憎く感じた。「いつものように腹立たせておけ」と少将が言ったということは、以前から私が腹立たせていると落窪から聞いているのだろう、そんな話をしているのだろう。本当に妬ましいと、北の方が布団の中でつくづく思っているほどに、どうすることもできず考え込んでいた。北の方の夫である中納言に申し上げようと思ったけれど、外見もよく、先ほどの直衣などを見るに、少将が素晴らしい人であるならば、夫の中納言はもてはやして周りにお知らせなさるだろうと思うと危うく思った。やはり落窪のことは、帯刀と結婚したものに伝えることにしよう。彼らが落窪を自由にしていたからこそ、このようなことになったのだろう。落窪は部屋に閉じ込めておこう。どうして「怒らせておけ」なんて言わせておけようかと、たいそう落窪たちを妬み、計略を巡らせていた。