新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



大阪大学2005年「毘沙門の本地」現代語訳

赤本に全訳が載っていないので、全訳を作ってみました。
内容の背景を捉えることを第一目標としているので、直訳とは若干異なるところがありますが、ご了承下さい。
順次赤本に全訳が載っていない古典の文章の訳をアップしていこうと思います。

※因みに過去問は東進の大学入試問題過去問データベース から入手可能です

 

 

 少しずつ大梵王宮に近づき、様子がはっきりと見えてきたところ、そこは金銀の塀を築き、黄金の門が立っていた。乗ってきた馬を門のほとりにつなぎ置いて、王宮の中に入り辺りを見回したところ、金色に輝く井戸があった。その井戸のもとに、一由旬ほどの赤栴檀の木があった。高くそびえていて、全く登れそうにもなかった。
しかしながら太子はそこになんとか登りなさって、井戸の辺りを見下ろし、(探していた)姫君がやってきなさらないだろうかと待っていたところ、ちょっと経って、恋しく、そして悲しく思っていた姫君と思われる人が、黄金の花かごに、これまた黄金の花を入れて、それを手に持ってやってきた。当時よりもいっそう美しさは増して、言葉にすることもできず、また身につけた珠の飾りは鮮やかで。
そんな姫君が、井戸を覗き込んで花を注ぐための水を汲もうとすると、昔一緒になると約束した太子の面影が、井戸の水に映った。姫は「私はすでに死んで、大梵王宮に生まれ変わった身です。それなのにまだ、前世の煩悩が残っているようです。俗世で夫婦になろうとちかった昔の人の面影が、あまりに恋しくて目に映ったのは、どれほど恥ずかしいことだろう。」と独り言を言いながら、こう詠んだ。
 昔夢で見たあの人の姿を、反射する井戸の光りの前に捉えてしまう私の気持ちははかないものだ
女が赤檀の木を見上げたところ、太子と目が合った。女は「これはそもそも夢なのでしょうか。昔契った人の面影が、井戸の水に映ることさえ驚きなのに、現実に目にしているこの瞬間は、いっそう不思議なことです。」と言った。涙がとまらなかった。
 太子は木から下りてきて、ここに来るまでの出来事を話した。姫君はそんな太子に向かって「さて、どうして欲望を捨てきれない有漏の身(生きた人間)であるのに、どうやってここに来たのです。」と言って、その場で泣いてばかりだった。
 太子は麻耶国のことや、くる国に主人公自らが参上して、姫君が亡くなったという知らせを聞き、その後の夢のお告げで心尽くしたことを語り合っていた。
 太子はお話をしながら、姫君の側に寄ろうとしたところ、「私に近づかないで下さい。昔こそ私も煩悩の多い普通のものでしたが、今は大梵王宮というめったにない場所に生まれ変わることができ、今は朝夕の仏様に供養する役をしています。ただいまも、その花をきれいにしようと思ってここに参上して、偶然あなたにあったのです。私は帰るための天空を飛ぶための乗り物を持っています。しかしながら太子はまだ生きており、有漏の身で、私の飛行にではあなたを現世へと返せません。したがって、ここでしばらくお待ちになって下さい。天人たちが認めれば、ここから帰ることもできるでしょう。」と言った。
それを聞い太子は、恨みの涙を流しなさった。


アイキャッチ御伽草子

御伽草子 上 (岩波文庫 黄 126-1)

御伽草子 上 (岩波文庫 黄 126-1)