映画「きっと、うまくいく。」考察~All is wellの言いたいことと、赤塚不二夫のメッセージ~
僕は殆ど映画を見なかったのですが、さすがに映画に関わるNPOに関わっていて、しかも(名ばかりですが)広報の代表をしているにも関わらず「映画は見ない」はマズイということで、最近時間を作って映画を見るようにしています。
せっかくなので、今まで書いてきた本や歌詞の考察に加えて、映画の考察もシリーズで書いていくことにしました。
というわけで第一弾は知り合いに紹介してもらって、非常に印象に残ったこの作品「きっと、うまくいく。」です。
インドの工科大学の寮でのドタバタ劇を描いたこの作品の主人公は、ランチョーという大学時代の友人が現在何をしているかを探すという構成で物語が始まります。
大学時代にランチョーを含め3馬鹿と呼ばれていた主人公の友人たちは、かすかな手掛かりを頼りに、ランチョーを探します。
その感にいろいろな想い出を振り返るという形で学生時代の彼らの生活が明らかになる。
主人公のランチョーは、非常に頭の良い人物で、いつも物事の本質を突くような発言をします。
大学に入学した当初から、学内にあった上下関係や学長の過度な競争主義に懐疑的で、いつもぶつかっていました。
初めこそ、そんな「問題児」であるランチョーのことを周りの人たちは問題児としてみていますが、一本筋の通ったランチョーの行動を見て、周囲は次第に変わっていきます。
最後はランチョーを目の敵にしていた学長までも認めるようになる。
(細かなストーリーを話してしまうとネタバレになってしまうので、ざっくりとしたあらすじだけ…)
常に周りを巻き込み、周りを変えて行くランチョーの口癖はAll is(izz) well.
(正式にはizzですが、ここではisと表記します)
窮地に陥るたび、こころの中でこの言葉を自分に言い聞かせ、いつも困難を乗り越えます。
[All is well.]と「きっと、うまくいく。」という邦題
映画を貫く主人公の考え方All is wellは、「きっと、うまくいく。」という和訳で、邦題にも使われています。
オシャレな訳で、邦題としてはぴったりだと思うのですが、この作品が言いたいことをより的確に表すには、この和訳には少し違和感がありました。
「きっと、うまくいく。」だと、将来のことを祈る言葉のように聞こえてしまう気がしたのです。
僕は、ランチョーが言う[All is well]は、自分の選択を行程し背中を押すことばであると感じました。
だから、もっとこう、自分の選択を受け入れるニュアンスがある言葉ではないかなあと思うのです。
そんな風に思っていたときに僕がぴったりな和訳だと思う言葉を漫画家の山田玲司先生が言っているのも見つけました。
それが「これでいいのだ」という言葉。
バカボンのパパの口癖であるこの言葉こそ、ランチョーが言わんとすることを、最も的確に表しているように思うのです。
赤塚不二夫と「きっと、うまくいく。」の共通項
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あなたの考えはすべての出来事、存在をあるがままに前向きに肯定し、受け入れることです。それによって人間は、重苦しい陰の世界から解放され、軽やかになり、また、時間は前後関係を断ち放たれて、その時、その場が異様に明るく感じられます。この考えをあなたは見事に一言で言い表しています。すなわち、「これでいいのだ」と。
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タモリさんは赤塚不二夫さんの弔辞で、赤塚さんの「これでいいのだ」という言葉に込められた哲学をこう表しています。
「きっと、うまくいく。」の中でランチョーいうAll is wellは、まさにこうした意味ではないかと思うのです。
ランチョーは自分が疑問に思う状況に出くわすと、それを我慢して受け入れることはありません。
いったん自分の頭で考えて、それが違うと思うのであれば、しっかりとそれを主張します。
その主張をするときに勇気付ける言葉がAll is wellなのです。
ここには、「自分が出した結論ならば、あとの成り行きは受け入れよう」という意思が感じられます。
納得できない出来事に直面したら、Is all well?(これでいいのか?)と自問し、納得できる結論に到達したのなら、All is well(これでいいのだ)と自分に言い聞かせて前に進む。
主人公にとって、All is wellという言葉は、そんな意味を含んでいるように思うからこそ、赤塚不二夫さんのいう「これでいいのだ」が最も適した和訳だと思うのです。
「競争が全てなの?」10年代のコンテンツに表出するモチーフを先取りした作品
ヒットしたマンガやアニメには、必ず時代の空気感が投影されているというのが僕の持論です。
僕はゼロ年代後半から10代前半のコンテンツには、競争に対する問題提起がなされる場合が多々ありました。
「NARUTO」や「ワンパンマン」「黒子のバスケ」がその好例。
(この辺は以前のエントリで説明しています)
バトルロワイヤルや金色のガッシュベルなど、ゼロ年代前半には、疲弊しながら競争に競り勝とうとする主人公が頻繁に描かれました。
それが、ゼロ年代後半にかけては、「競争で勝つだけでいいの?」という思想を持つ主人公が頻繁に登場するようになります。
「試合終了した時どんなに相手より多く点を取っていても嬉しくなければそれは「勝利」じゃない・・・!」
『黒子のバスケ』で主人公の黒子がいうこの言葉には、そうしたメッセージが端的に示されていると思います。
「きっと、うまくいく。」の中で、主人公は同じ問いを投げかけます。
舞台となるインドの工科大学は、学歴でいえばトップクラスの学校という設定です。
学長も生徒もそのことを誇りに思っていて、だからこそ学生の親たちは無理をしてでもそこに通わせ、わが子が将来成功することを望む。
一方その実績の裏には、勉強についていけず自殺する生徒や、自分のやりたいことを我慢して学問に打ち込む生徒たちがいます。
ランチョーはこうしたシステムに正面から疑問符を投げかける。
他にも感じたことはいくつもあるのですが、長くなったのでここまで(笑)
上映されてから少し時間が経過した映画ですが、まだまだメッセージとして古びない、素晴らしい映画だと思います。
アイキャッチはもちろんこれ!