新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



帰ってきたドラえもん考察~ジャイアン映画ではいい奴問題と科学への皮肉を成長プロットに転化した凄さ~

あらためて僕が説明するまでもないことかもしれませんが、帰ってきたドラえもんって凄い映画だったなあと思います。
小さい頃ドラえもん映画は数多く見ていましたが、やっぱり一番印象に残っているのはこの映画です。
あの一時間くらいの中篇物語の中でしっかりと起承転結を入れた上で、のび太の成長を描ききっている。
当時小学生だった僕は、感動して涙したことを覚えています。

タイトルで結末を示した上で感動させる演出の凄さ

僕がこの映画を改めて凄いなと思ったきっかけは、何気なくタイトルを見ていたときでした。
「帰ってきたドラえもん」って、タイトルの段階で、どういう結末で終わるかを伝えてしまっているんですよね。
普通、エンディングをタイトルになんて絶対にしません(というかできません)。
そんなネタバレを堂々とタイトルで行い、その上でしっかり映画を見た人を感動させられる。
これって凄い挑戦だと思うのです。

道具が予想外の事故を引き起こすテレビシリーズのドラえもん

テレビシリーズのドラえもんは、日常ものに分類されるアニメです。
テレビシリーズでは、困難に直面したのび太がその解決手段として安易にドラえもんの道具を頼り、一旦は解決したように見えるのだけれど、調子に乗ったのび太が道具を好き勝手使うことにより、別の問題が生じ、結果として上手くいかなかったというプロットでストーリーが展開することが多いドラえもん
テレビシリーズでは、安易に技術に頼ることに対する皮肉が軽妙に描かれています。
日常ものでは、基本的に登場人物の成長は描くことができません。
その世界の登場人物たちは、いつまでも変わらないからこそ、日々のドタバタを途切れることなく描けるのであり、そこに「成長」という時間の流れを含むコンテンツを入れてしまえば、そもそも「日常もの」として成立しなくなってしまいます。
その特性を踏まえて「安易に技術に頼る主人公が、上手くいくようで結局失敗しておしまい」という文脈を取り入れたのは本当に上手いなと思います。

そして、そこにさりげなく背景に目を向けず安易に技術にたよる現代人への皮肉を潜ませている。

映画版ジャイアンがいい奴になる理由

テレビで流し、見たい人だけが楽しむというアニメに関しては「成長しない物語」というのは非常に相性がいい反面、有料で、何時間か劇場に観客を拘束することで成り立つ映画の場合、観客は登場人物に何らかの変化を求めます。
だからあらゆるアニメが、劇場版になると何かしらの「成長」を描きます。
たとえば、クレヨンしんちゃんであれば家族の絆を深めるという形で「成長」を描いたり、名探偵コナンの場合は服部平次と一葉の恋愛の進展においてみたりという具合です。
ドラえもんの場合、家族愛を描くことも恋愛を描くこともありません。
そのため何かしらの変化を描こうとしたら、友情か個人の成長くらいしかないのです。
映画版ジャイアンがいつもいいやつになるのはこれが理由です。
そういった「変化」がなければ、そもそも映画のストーリーとして成立しないのです。
帰ってきたドラえもんの場合は、その「変化」がのび太の成長という形で表現されています。

テレビシリーズのプロットを裏返すことで感動にもっていったストーリー

僕が「帰ってきたドラえもん」のストーリーで最も凄いと思っていることは、映画に求められる「変化」を演出するに当たって、テレビシリーズのプロットを反転させることで上手く組み込んでいる点です。
前にも述べたように、テレビシリーズでは「安易に技術に頼る主人公にしっぺ返しがくる」というプロットが多用されます。
そして、毎回安易に道具に頼り、調子に乗ってそれを使いすぎ、別のところに新たな問題が生じるという形で、「成長しない日常もの」として成立させています。
帰ってきたドラえもんでは、これを全て逆転させることで、のび太の成長を描きます。
ドラえもんのび太のもとを去る際に、最後に一つだけ助けてあげられる道具を残します。
テレビシリーズでは最初に道具に頼るのび太が、この映画では最後の最後でしか道具に頼らない。
普段の「道具に頼る→問題を解決しようとする」が「問題に立ち向かう→道具に頼る」となるわけです。
構成を端的にまとめると、帰ってきたドラえもんは、のび太は1人で立ち向かい(=成長し)→最後の最後で道具を使い→その結果道具のおかげで意図しないうちにドラえもんが戻ってくるという構造になっています。
まさにテレビシリーズとは真逆の構成。
自分でやれることをしているからこそ、道具のおかげで予期しない(いい事態)が起きるというストーリー展開です。
一見するとありがちな感動物語ですが、よくよく考えると非常に練りこまれている。
だからこそ、タイトルでハッピーエンドを堂々と示していても、観客を感動させられるのだと思います。


こんな風に見ていくと、むちゃくちゃよく出来ていることがわかる『帰ってきたドラえもん』という映画。
僕の中でかなり印象に残っている作品です。

 

アイキャッチはもちろんドラえもん