新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



コレサワ『たばこ』考察〜「たばこ」というモチーフにこめられた意図を追う〜

「信じてくれるなら話さなくても」
「悪いことしてないなら話せるはずじゃない」
「僕を信じてくれないんだ」
「私を信じて話してくれるんじゃないんだ」

バクマン。』に出てくる、主人公のサイコーと、ヒロインの亜豆(あずき)の、男女の価値観の違い故に起こるこのやりとり。

 

「相手はこう言っているけど、こちらにだって言い分はある」

 

程度の違いはあれど、ほとんどの人が一度は経験したことがあるのではないでしょうか?

そんな男女のすれ違う想いを、コレサワの『たばこ』を聞いてふと思い出しました。

 

主人公の「後悔」と日常の描写

知人がカラオケで歌っていたのをきっかけに、何となく好きになったコレサワの「たばこ」という曲。

改めて歌詞を見たとき、とてもいい曲だなあと思いました。

特に、「たばこの煙」の使い方が絶妙だなあと。

 

時系列を追って見ていくとまず、1番のAメロでは〈昨日の夜から君がいなくなって 24時間がたった〉とあり、そこで2人の関係がこじれてからしばらく経ったタイミングであることが知らされます。

そして直後に続く〈僕はまだ一歩も外には出ていない〉という歌詞から主人公(この場合「僕」)が、君が出ていったことにショックを受けていることが分かる。

Aメロのこの描写から、2人は喧嘩別れというよりも、「僕」が「君」を怒らせてしまったのが原因であるかのように伺えます。

その証拠のようにBメロで表れる「僕」の後悔の様子。

〈たばこの嫌いな僕を気遣って ベランダで吸ってたっけな〉

一緒にいた時の「君」の気遣いを思い出した直後、Bメロはこう続きます。

〈力一テンが揺れて目があつくなった もうそこに君はいない〉

恐らくカーテンの揺れは風に揺らされたのか何かなのでしょう。

万葉集にある「君待つと 我が恋をれば 我が宿の すだれ動かす 秋風の吹く」ではありませんが、主人公は揺れたカーテンを見て、たばこを吸いにベランダに出た「君」を思い出します。

この表現によって、主人公がどれだけ「君」を愛していたのかが聴き手に伝わってくるわけです。

そしてサビに。

 

〈「もっとちゃんと僕をみててよ
もっとちゃんと」 って その言葉が君には重かったの?〉

あえてわかりやすい解釈にするのなら、このサビのフレーズは、もっと自分のことを見て欲しいという、彼女への自分のエゴとも読みとれます。

表面的に歌詞を拾えば、彼女に別れを告げられるまで、彼女の気持ちなんて何も考えてあげられなかった主人公の後悔を歌った曲と見ることが可能です。

 

また、2番では〈僕のことはたぶん君がよく知ってる〉といい、いかに「君」が僕の細かな好みを知ってくれていたのかという内容が続きます。

そして、その後に続く〈僕は君のことどれくらい分かってたんだろ〉という言葉。

「君」が「僕」のことをよく知っていてくれた例として挙げられているのは寝ているときの癖やキスの好み。

対して「僕」が「君」のことで思い出すのは「好きなたばこの銘柄」です。

個人的に、この対比が凄いなあと思っています。

ここで、実は主人公は自分のことばかりで、「君」をみていなかったということに気がつきます。

そして〈もっとちゃんと君を見てれば〉というサビになる。

 

本当に主人公は「君」のことを見ていなかったのか?

こんな風に、終始自分が「君」のことを見てあげていなかったという後悔が綴られる「たばこ」ですが、本当に主人公は「君」のことを見ていなかったのでしょうか?

改めて主人公の行動を歌詞の中から追ってみると、実はそんなこともありません。

1番のAメロ〈マイぺ一スでよく寝坊する 君のことを想って 5分早めた家の時計もう意味ないな〉とか、たばこ嫌いの僕への気遣いなど、実は主人公も「君」のことをきちんと見ています。

もちろん「もっとちゃんと見て」と言ってしまうような自分のことばかりの態度に反省点はあると思ったのでしょうが、一方で主人公はきちんと「君」のことを考えていたわけです。

そもそも「もっとちゃんと僕を見てよ」という要求は、「自分はこんなに見ているのに」という感情がなければ出てきません。

僕はこの曲を聴いたばかりの頃は、「自分」ばかりで恋人のことを考えていなかった自分に対する後悔を歌った曲だと解釈していました。

しかし、繰り返し聴くうちに少し見方が変わってきて、実は主人公の後悔だけじゃなく、「お前ももう少しこっちのことを考えてくれてもよかったじゃん」という、別れた後の小言も歌われているのではないかと思うようになってきました。

この解釈に至ったきっかけが、最後のサビに向かう手前に出てくる、主人公が「たばこ」に火をつけるシーンです。

 

「たばこ」というモチーフにこめられた意図を追う

〈君が置いていったたばこ 僕の大嫌いなものなのに どうして火をつけてしまった 君の匂いがしたのさ 君の匂い ひとくち吸つてしまった でも やっぱりむせた〉

最後のサビの手前、主人公は「君」の思い出のひとつである「たばこ」に火をつけます。

まだ「君」のことを思っているようにも解釈できるのですが、反面、〈どうして火をつけてしまった〉〈ひとくち吸ってしまった〉と、「たばこ」を吸うことに後悔が漂います。

この作品の中で「たばこ」は、「僕」と「君」との接点であるはずなのに、それに触れる主人公からは、どこか割り切れない感情が読み取れる。

仮にこの場面で主人公が自分の言動のせいで「君」を傷つけたとストレートに思っているだけなのだとしたら、「君の思い出であるたばこを吸って煙が目にしみた」でいいはずです。

にも関わらず、この歌詞では他の感情を匂わす表現がなされています。

僕はこの表現と、前に出てきた主人公もそこそこ「君」のことを思っていたことが分かる表現を合わせて考えた時、主人公には「君にだって悪いところはあったんじゃないの」という、「君」をなじる気持ちが描かれている歌だと解釈するようになりました。

「僕の悪い所はいっぱいあるけど、君だって...」

これが「たばこ」で書かれた主人公の気持ちなんじゃないかなというのが僕の考え。

「僕」が「大嫌いなたばこ」を「吸った」とき、「むせた」というのは、全部「僕」が悪いと受け入れようと思ったのだけど、どこか受け入れきれない部分があったということのメタファーなんじゃないかなと思うのです。

 

そして最後のサビへ。

最後のサビでは〈「もっとちゃんと僕を見ててよ」〉という気持ちと〈『もっとちゃんと君を見てれば』〉という気持ちが並行して描かれ、2つの気持ちの間で揺れる主人公の心情が分かります。

そして、〈少し苦い君の匂いに泣けた〉と続く。

最後に「君」の思い出のたばこを吸って涙を流すわけです。

 

別れ際の心情は複雑です。

相手の悪い所を思い出す一方で自分も悪かったんじゃないかと思ったり、自分の態度を反省しつつも向こうにだって悪い所はあったんじゃないのと思ったり...

「僕の悪い所はいっぱいあったかもしれないけど、君だって...」
そんな、別れたばかりの繊細な気持ちを歌ったのが、コレサワの『たばこ』だと思うのです。

 

アイキャッチはもちろんコレサワの『たばこ』

たばこ

たばこ