新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



人は希望を奪われたときに絶望する

僕が大好きなマンガのTOP10の中に入るマンガにスパイラルという作品があります。

基本的には推理マンガとなっているのですが、登場人物みんなにどこか影があって、そこが読者をひきつけます。

何より、物語の構成がよくできていて、特に単行本の最終巻に収録されるクライマックスに向かう大どんでん返しは凄いです。

(個人的にお気に入りの理由は、その後の最終話ですが)

 

このクライマックスでは、最後の敵が主人公の心を折るために、一度与えた希望を奪うということをやってのけます。

人に心を開かない孤独な主人公。

そんな主人公のそばにいて第1話からアシストをしていたヒロインに少しずつ心を開いていきます。

そしていよいよ最後の敵と対峙するのですが、その時にその唯一心を開いたヒロインが、敵の仕込身だったことがわかる。

 

この遣る瀬無い展開を見た時に背筋がゾクっとしたのを覚えています。

 

発狂のさせ方と絶望のつくり方

監禁された場所から脱出するために犠牲を払って頑張ったのに、外に出て見たらそこはまた別の監禁ステージだった。

自分の敵を倒すために心を殺して的に使えていたのにいざ敵を打つ場面でその事が全て見透かされていた。

 

絶望を描くシーンは数多くありますが、実際に僕たちが絶望を感じる状況を言語化するとしたら、それまであった希望が奪い去られた瞬間ではないかというのが僕の持論だったりします。

ドストエフスキーの『死の家の記録』の中に出てくる終わりの無い無意味な労働という拷問は確かに怖いですが、それでも初めから希望が無いので発狂こそすれ絶望はしません。

初めに期待という振れ幅があって、そこから転落するときこそ、人は絶望を抱くと思うのです。

 

そういう観点から見たとき、GoToトラベルの見直しは飲食店や旅行業界にとっては結構精神的に堪える決定だなあと思いました。

僕はもともとGoToキャンペーンは「飲食店や観光産業を救う目的」で実施されたのではなく、「旅行サイトやレストラン検索サイトを運営する会社を救う目的」で実施されたイベントであってそれが良いか悪いかで言えば否定的なスタンスだった(最大限活用はしましたが)のですが、それでも飲食店や観光産業に携わる人にとっては1つの希望になるのだろうなと思っていました。

 

実際に1泊2日で沖縄に行ったとき、10件近く食べ歩いてその全ての店でお店の人と話して色々聞いてみたのですが、どこもコロナでの売り上げ減のしんどさと、GoToで多少は...というお話をしてくれました。

もちろん依然苦しい状況には変わらないようでしたが、それでも少しは希望になっていたという印象です。

 

政策における最悪手は与えた希望を奪うこと

基本的に僕は政治に興味がない(政治を語ることに興味がない)ですし、「べき論」よりも合理的であるかどうか、仕組みが優れているかどうかに興味が惹かれるため、いわゆる「それは国民を苦しめる政策だ」とか「それは特定の人に利益を誘導するための政策だからけしからん」みたいな感情を抱くことはありません。

そこに政党内の権力図だろうが、業界からの圧力だろうが、それが決定したプロセスの想像がつけばなるほどと納得してそれ以上に感情が動くことはありません。

 

ただ、そんな僕でもこれはあまり良くないのでは?と思うことがあります。

それが一度見せた希望を奪うという選択。

初めから厳しい状態であったり、悪い政策であれば、胆力のある人なら歯を食いしばって耐えようというモードに入るので、結構乗り切ることができたりします。

でも、一度期待がちらついて気を緩ませてしまうと、その期待が無くなった時に再びグッと歯を食いしばって構えるのには相当なエネルギーが必要です。

人は一度緩めた気を瞬時に再び引き締められるほど強くはできていないように思うのです。

 

人は希望がないときではなく、与えられた希望が奪われた時に絶望する

初めから希望が無い先にあるのは発狂だけど、あった希望が奪われた時には絶望する。

先にも書きましたが、僕は絶望の仕組みをこのように思っています。

その意味でいけばGoToキャンペーンが見直しになるというのは、結構多くの飲食店や観光産業に関わる人に絶望を与えるんじゃないかなと。

 

もちろん、感染拡大でそんなことを言っている場合ではないだろという意見もあると思います。

ただ、あくまで僕が今回興味を持ったのは「期待が奪われることが与える社会への影響」の部分。

他の簡単に対する考えは一切述べるつもりも述べたつもりもありません。

ただ一点、「与えられた希望が奪われる」という事象は数ヶ月後に結構大きな影響を伴って社会に表出するのではと思ったらしたわけです。

 

僕自身コロナによってそれほど悲観的になったわけではありませんが、一歩引いた視点で見ていたときに、エグい決定だなと思ったので、備忘録としてブログに書き留めておきたいと思います。

 

アイキャッチはスパイラル

本当に最終巻がすごいです。