新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



SEKAI NO OWARI『Habit』考察〜誰よりも優しい若者に対するFUKASEさんのエールを受け取る〜

少し前にSNSで大きく流行っていたSEKAI NO OWARIの『Habit』
実は今回歌詞考察をするにあたって始めて作曲者のインタビューを事前に読みました。
というのは、初見で僕が受けた印象が、SNSでの評価とあまりにかけ離れていたからです。
僕がこの曲を聴いてはじめに受けた印象は「若者への応援ソング」、しかもどこまでも直球で愛に満ちたものという印象でした。
調べてみると、楽曲依頼時に「今を生きる若者たちへの優しさを込めてほしい」と書いてあったので一安心。
っというわけで、今回はSEKAI NO OWARIの『Habit』に込められた「優しさ」について考察していこうと思います。


おしゃかしゃま』的な作りと考察の手順


さて、いつも通り歌詞考察をしていこうと思うのですが、今回は少しだけ普段と違う構成で行っていこうと思います。
というのも、この曲が「詞先」で作られている様に感じるからです。
曲の作り方にはまずメロディがありそこに歌詞をるパターン(back numberやBUMPはこれ?) 、詩を作った上でメロディを考えるパターン(多分コブクロ槇原敬之さんの一部楽曲、初期の鬼束ちひろさんなど)、詞とメロディが同時に生まれるパターン(初期のドリカムの吉田美和さんやラルクの「NEO UNIVERSE」など)があります。
この曲を聞いたとき、僕は明らかに詞先だろうなと感じました。
伝えたい言葉を書き並べた上でメロディをつけた。


そう思ったのはこの曲がRADWIMPSの『おしゃかしゃま』をオマージュしたように作られているからです。
あの曲はまず野田洋次郎さんが言いたいことを並べ、言葉を削り、そしてメロディをつけたということをどこかのインタビューで言っていました。
そうしてできた『おしゃかしゃま』のメッセージは、「年上が作ったわけわかんねえルールや規則なんてごめんだ」というもの。
詳しくは次節以降で解説しますが、この曲は若者に「もっと本能のままに一歩を踏み出そう」というもの。
ちょうど衝動で年上の作った固定観念に噛み付くような『おしゃかしゃま』とは対になるメッセージです。
だからこそSEKAI NO OWARIの人たちは"あえて"RADWIMPSをオマージュしたのかななんて思っています。
(ギターやベースを弾いてみるとメロディがオマージュになっているので、恐らく意図的にやっているのだと思います)


ちょっと脱線しましたが、そういうわけでこの曲は詞先だと思っています。
そして詞先の曲によくあるのは必ずしも小節や Aメロ、Bメロの区切りが意味の区切りと対応しないということ。
歌詞が先行しているので、今回はあくまで歌詞の内容優位で内容を追っていこうと思います。


分類したがる若者


〈君たちったら何でもかんでも 分類、区別、ジャンル分けしたがる〉
いきなり挑戦的なフレーズではじまります。
世界をやたらと二元論で見たがるというメッセージの後には、〈持ってるヤツとモテないヤツ〉〈ちゃんとヤルやつとヤッてないヤツ〉〈隠キャ陽キャ〉と具体例が続きます。
分類しないと落ち着かない若者の現状を述べるのが一つ目。


割り切れない感情と向き合ってみないか?


一つ目のブロックで「何でもはっきりさせて理解したがる」ということを指摘した後、次のパートでは「人間の感情はそんなに割り切れるものじゃないよ」という“説教”パートに移ります。
〈気付かない本能の外側を 覗いていかない? 気分が乗らない?〉
そういわれて出てくるのがそんなに簡単に二分できない、“曖昧で 繊細で 不明瞭なナニカ”たち。
〈持ってるのに出せないヤツ〉〈やってるのにイケないヤツ〉〈持ってるのに悟ったふりしてスカしてるうちに不安になっちゃったりするヤツ〉
3つ目はたとえば、能力があるのに努力なんて無意味と言っているうちに周りが実力をつけてきて自分が不安になるとかでしょうか。
「見下した態度をとっていたのに不安になるなんておかしい」というのが二分法。
ここではそんな間逆の心情が浮かんでしまうのが人間だよねと歌われています。
ただ、「単純に割り切れない例」としてこれらが挙がりますが、最後の〈所詮アンタはギフテッド アタシは普通の主婦です〉という部分だけは少し色合いが違います。
ここでは割り切れない気持ちの例ではなく割り切った例が出てきます。
しかも割り切った上で言い訳に用いている。


ここまでを見ると、まるで若者に対して「本来簡単に割り切れるわけでもないものを割り切ったように見せて、自分が動かない言い訳にしていない?」という指摘をしてるように感じます。


「本能で動け」というメッセージ


〈夢を持てなんて言ってない そんな無責任にはなりはしない そんなHabit捨てる度 見えてくる君の価値〉
このパートからまた色合いが変わります。
〈俺たちだって動物〉というフレーズで、いきなりいままでとは違う描写が入ってきます。
〈ここまで言われたらどう? 普通 腹の底からふつふつと〉というのは先までのパートに出てきた若者に対する指摘のこと。
これは指摘というか、世の中を二分して分かった気になって言い訳しているだけでしょ?という挑発にも取れるここまでのパートを受けてのことでしょう。
Fukaseさんはここまで大人の俺にすき放題言われたら腹立たないか?と問いかけます。
そして〈故に持ち得るOrigineな習性〉と、その反応が自然なんだと語りかけます。
その上で〈壊して見せろよ そのBad Habit〉と続いたのちにメインのパートに。


露悪的にふるまう不可解なサビ


SNSではこの部分が主に流行っているので、曲自体を知らなくてもこの部分を聞いたことがある人は多いかもしれません。
メロディが印象的なので耳に残りやすいですが、歌詞をみると非常にトリッキーです。
〈大人の俺が言っちゃいけない事言っちゃうけど 説教するってぶっちゃけ快楽〉
サビの部分はこう始まります。
「説教はしている俺らが気持ちいい」という非常に露悪的な文言から始まるこのパートですが、内容としたら①説教はしてる俺らが気持ちいいということと〈そもそもそれって君次第だし その後なんか俺興味ないわけ〉という②お前らなんか知ったこっちゃないという突き放す2つのパートからできています。
これだけ聞くとただ露悪的に振る舞った大人、若者に悪口をいうだけの大人という印象を受けますが、この意図を汲み取るには、それまでの内容を踏まえる必要があります。


ここまでの歌詞で、FUKASEさんは「何でも二分したがる若者」そして「それを言い訳に使う若者」を批判します。
「何でも二分したがる」「言い訳を考える」というのを抽象化すれば、「理性」ということができるでしょう。
それに対応して出てくるのが「気づかない本性」「俺たちだって動物」「Origeneな習性」と言った言葉。
理性に対応させるため、ここは「本能」という言葉で抽象化します。


この曲は「理性」であれこれ考えて動けないでいる若者に対して「本能」で行動してみなさいと提案しているわけです。
そう考えた上でこの曲のサビを振り返ってみると。
「説教って超楽しい」「お前らなんてどうでもいい」というのは非常に強い挑発であると言えます。
そして、そんな挑発をなぜするのか?
その答えは、"怒り"という若者の「本能」に訴えかけ、行動へと駆り立てようとするからでしょう。
一見すると「大人の腹の中はこうだよ」という歪んだ真実の告白は、実はあえて露悪的に振る舞うことで若者の本能に訴えかけようという熱いメッセージなわけです。
この解釈の上で続きを見ていきます。


自分の「弱さ」を伝えることで若者を応援する


〈この先君はどうしたい? ってヒトに問われる事自体 終わりじゃないと信じたいけど そーじゃなきゃかなり非常事態〉
ここからのパートは、「実は構ってもらえるうちが花だよ」というFUKASEさんのさりげないアドバイスから始まります。
そして、〈君たちがその分類された 普通の箱で燻ってるからさ 俺は人生イージーモード〉と、お前たちが動かないから俺は余裕で勝ち続けられると再び挑発を。


ここから自分の過去の吐露に入ります。
〈俺はそもそもスペックが低い だから足掻いて豌いて醜く吠えた 俺のあの頃を分類したら 誰の目から見ても明らか〉
ここでかつての自分のダメな部分を伝え、さらには今の若者の二分で言えば自分は「君たちが負け組と分類して諦めている」弱者の側であると語ります。
そしてそこから死に物狂いで行動して這い上がったと。
〈すぐ世の中、金だとか、愛だとか、運だとか、縁だとか なぜ2文字で片付けちゃうの〉
というのは、それを踏まえた理性で言い訳をするなということの繰り返しでしょう。
そして「ここまで言われてまだ腹が立たないのか?」とくる。
そして、残りはそんなやりとりがこれまでに出てきた内容を通して繰り返されます。
以上が『Habit』の構成です。


きみたちはどう生きるか?

僕はこの曲を聞いたとき、『新テニスの王子様』の2巻で青学テニス部の主将が2年生のエースに対してワザと怒らせて本気を引き出すという場面を思い出しました。
『ワンピース』における、ルフィとコビーの別れのシーンで、コビーを挑発することで自分を殴らせ、海軍に入るきっかけを作ったのもこれと同じでしょう。
SEKAI NO OWARIの『Habit』は、これ自体を歌を通してやろうとしたのではないかというのが僕の解釈です。


「お前らうだうだ言い訳並べてないでさっさと動けや」というメッセージ。
そしてその裏には「だって君たちは僕と違って才能があるんだから」という気持ちが。
『Habit』には、理性であれこれ考えて一歩踏み出せないでいる若者に対して、まずは一歩を踏み出してみようと優しくアドバイスをしているように思うのです。
そして、それをただ歌に乗せて言うだけでは誰も動かせない事が分かっているから、「挑発」という形で無理矢理行動させようとする。
しかもその「挑発」の曲は、発表当時まるで年上が作った社会や価値観にケンカを売る様な内容を歌ったRADWIMPSの『おしゃかしゃま』のオマージュになっている。
とってもとっても攻撃的だけれど、とってもとっても愛に溢れた優しい曲というのが、この『Habit』だと思うのです。