パチンコ型漫才とヒッチコック的モグライダーの発明
僕が好きな漫才のパターンのひとつに「パチンコ型漫才」があります。
といってもこんなジャンルが存在するわけではなく(たぶん)、この呼び方は僕が勝手にしているものです。
パチンコ型というのは初めから最後に成功パターンの前振りがあって、それがうまくいくかどうかというのをひたすら繰り返す形式のもの。
2020年に錦鯉さんが初めてM1の決勝に出た時のパチンコネタ(そのままですね)や、その数年前に検索ちゃんでオードリーが見せたCR春日(こちらもそのままですね)がこのパターンに該当します。
個人的に、ゴールが決まっているオチに向かってどういうパターンを次は用意するのかというのがワクワクして大好きだったりします。
ネタの題材に「パチンコ」を冠したオードリーや錦鯉のネタ以外にも、構造的に同一の系統を取るネタが多く存在します。
その典型はトム・ブラウンの作るネタでしょう。
たとえば中島くんを5人合体させて「スーパー中島くん」を作りたいという唐突な提案から始まるネタでは、中島くんの中にひとり中島みゆきが入って失敗に終わったりと、「スーパー中島くん」という大当たりに向かうリーチ演出のようなものが繰り返されます。
途中さまざまな失敗パターンが生まれ、時には一度失敗しても再チャレンジというパチンコで言うところのスーパーリーチのような演出も挟まり、ネタが進みます。
これもパチンコ型のネタでしょう。
こうして挙げてきたパチンコ型の漫才ですが、その(きちんとテレビに露出した人たちの中で!その一番新しいのがモグライダーの「さそり座の女」だと思っています。
モグライダーのこのネタは「美川さんって、可哀想じゃないですか」というネタふりから始まります。
何を可哀想だと思ったのかを聞くと、ボケの友繁さんが「『いいえ私はさそり座の女』って歌い出しで始まるってことは、その前に誰かに星座を聞かれて間違えられているってことでしょ?」と返します。
ここから、「さそり座の女」の前奏の部分で「美川憲一さんの星座を当てる」という挑戦がスタートします。
ここからは王道のパチンコ型に。
テーマもパターンも僕のドストライクのこのネタですが、僕はそれまでのパチンコ型に加えて、もう一つ新しい仕組みが入っていると思っています。
それは「結末の提示がされている」という部分です。
これまでのパチンコ型のネタは当たるか外れるかというシンプルな結論だったのですが、モグライダーのこのネタの終わりは「いいえ私はさそり座の女」と歌い始めるというところです。
このネタを見せられた僕たちは、純粋な当たり外れではなく、「いいえ私は〜」にどう繋がるかを期待しながら待つことになるのです。
「愛する男女が机で向かい合って見つめ合っていればロマンスだが、観客にだけ見えるように机の下の時原爆弾があればそれはサスペンスに変わる」というのはヒッチコックの言葉。
時限爆弾がある事で、見ている側は2人が死んでしまう光景を常に意識せざるを得ず、常にハラハラ感を持つことになるわけです。
少し前だと『100日後に死ぬワニ』がこの仕組みをもちいて大ヒットしていたように思います。(幸せに暮らすワニの死を知っていることで、読者に緊張感とワクワクを呼び起こす仕組み)
モグライダーのこのネタも、この要素が含まれているように思います。
僕たちは僅かな前奏の中で「そうよ」を吐き出すために焦るボケの友繁さんを見ています。
決められた結末に向かうだけでなく、そこへの制限時間もある事でグッと引きつけられる。
あの仕組みは本当に面白いなと思うのです。
ぺこぱの「ノリツッコまない漫才」を始め、「システム」が評価される芸人さんは沢山いますが、僕はやっぱりモグライダーのパチンコヒッチコックパターンのシステムが優秀だなあと思っています。
そんなパチンコ型漫才。
よかったらみなさんも見てみてください。