新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



ドリカム歌詞考察〜NOCTUNE001からねぇまでの吉田美和さんの立ち直りの跡〜

<大人のほうが恋は切ない はじめから叶わないことのほうが多い 〜 クリスマスが急に嫌いになる>
僕がドリカムを好きになるきっかけになった「もしも雪なら」という曲のサビです。
<今まで大人のつもりでいた この恋をするまでは どうにもならないこんな思い 私のどこに隠れてたんだろう?>
こう始まる「もしも雪なら」には、子供の時のように無邪気には始まらない大人の恋が描かれています。
当時高1の僕が衝撃を受けたのは、大サビが終わった最後のワンフレーズでした。
<結局雨はみぞれ混じり 苦笑いするしかなく もしも雪なら 雪になったらあきらめないって密かにかけてた この思いはもうこのまま溶けて消えゆくだけ>
クリスマスにもしも雪が降ったら、好きな人に気持ちだけでも伝えようと決心していたのに、空を見ると「雨はみぞれ混じり」。
これ、「雨が混じったみぞれ」じゃくて「みぞれ混じりの雨」なんですよね。
それは雪ではなくて、ほとんど雨な訳です。
それでもみぞれが混じっているから諦めなくても約束を破った訳ではない。
そんな主人公の未練みたいなものがこのフレーズから強烈に伝わってきて、僕はドリカムのファンになりました。


以前、脳科学者の茂木健一郎さんが講演で言っていたのですが、ユーミンの書く歌詞は、全て頭の中で創り上げた内容、フィクションなのだそう。
それに対してドリカムのほぼ全ての歌詞を書く吉田美和さんは、自分の経験がそのまま投影されるアーティストであると言えます。
2012年に金環日食を前にして、時間旅行(金環日食の表現が入っている歌)のインタビューを受けた吉田美和さんは、「意識してその言葉を使った訳ではないけれど、私の中から出てきたってことは、何処かで印象に残ってたんだと思う」と言っています。
自身で曲と歌詞が同時に降りてくると言っているように、美和さんは自分の経験を投影して、曲を作り出せるタイプなのだと思います。

 そんな、自分の気持ちを投影する形で曲を仕上げる美和さんの曲の中で、僕にとって非常に印象的な作品群があります。
それは、and I Love UというアルバムのNOCTURNE 001という曲から、両A面シングルのMERRY-LIFE-GOES-ROUND/TRUE, BABY TRUEそしてドラマ救命病棟24時の主題歌にもなったその先へ、資生堂のcmソング「ねぇ」までの楽曲です。
ちょうどNOCTUNE001を含むアルバムを制作中に、美和さんは夫と死別しています。
僕が一覧で並べた曲には、その節々に、美和さんの辛い気持ちから立ち直るまでが現れています。

<出会ったときの気持ちを冷凍保存できればいいのに>と始まるNOCTUNE001。
この今日は普通に聞くと、愛が覚めてきた2人の歌のように感じます。
しかしこの曲の作曲中、美和さんの夫は危篤状態で、レコーディングの時に亡くなったことを考えると、見え方が一辺します。
気づかないふりはIt's been free to away>
<髪を洗っても拭えないタイプの不安>
<さよならに耐えられるようなサプリメントがあればいいのに>
<永遠は手を伸ばすと逃げてゆく亡霊>
他にも節々に「死」を連想させるフレーズがあります。
これを掠れた声の美和さんが歌うと、どうしても夫の死を覚悟した美和さんの悲しみが表れた曲に聞こえてならないのです。

夫を亡くして初めに出されたシングルがMERRY-LIFE-GOES-ROUND/TRUE, BABY TRUEです。
どちらも明るい曲調なのですが、歌詞の節々に辛さが現れているように感じます。
<夢や希望をなくしても人生はらララル続いてくの ゲームオーバーに見えてもその先ララル続いてくの>
MERRY-LIFE-GOES-ROUNDはこんな感じで始まります。
そしてTRUE, BABY TRUEでは<ただ過ぎてくだけの時間でも 生きる気力のない毎日でも いつかは変わる何かが変わる>と自分に対するエールのような歌詞が続きます。
そして大サビで<明けない夜がないことをしあわせだとかんじるまで信じてみよう〜割れて嗄れたた声でもまたこなごなの心でもまだ>と続きます。
明るい曲調で、元気になれる言葉もおおいのですが、こういった所々に辛い心が滲みます。
この二曲はどちらも自分自身を奮い立たせるための歌詞に見えます。

その後出した「その先へ」の歌詞を聞いたとき、美和さんが大分立ち直ったのだなあと感じました。
<眠れない夜をもう何度もやり過ごしたはずだろう? 悲しみの海を溺れながらここまで来たはずだろう?だからこそその先へ>
何度もやり過ごさなければどうにもならないような眠れない夜が来て、その度乗り越えてきたじゃないかと歌は始まります。
そして、先へ進めという強いメッセージが込められている。
その先へもMERRY-LIFE-GOES-ROUND/TRUE, BABY TRUEもどちらも自分を奮い立たせるような歌詞なのですが、MERRY-LIFE-GOES-ROUND/TRUE, BABY TRUEの方は辛くても人生は進んで行くんだという、時間は勝手に過ぎて行くから頑張ろうというメッセージが強かったのに対して、その先へでは明確に自分でもがきながら進めというメッセージになっています。
このあたりに来て、美和さん自身の中でようやく前を見られるようになっていたのだろうと思います。

そして最後が「ねぇ」です。
<わかるよその気持ち>から始まるこの曲。
今までの自分を奮い立たせるような曲から、この段階で始めて、自分のつらかった気持ちを正面から出しています
「ねぇ」では、人生は勝手に回っていくとも自分で進めとも言わず、ただ気持ちを受け入れている。
<わかるよその気持ち 名前 呼んで見るときの 心が死んでいくような 引きさかれるような気持ち>
その先へやMERRY-LIFE-GOES-ROUND/TRUE, BABY TRUEが一人称の応援ソングだったのに対して、「ねぇ」ではリスナーに私も知ってると語りかけるように勇気付けてくれます。
<わたしも通ってきたから 同じとこでつまずいて 泣いたから>
そしてサビで、どのポケットも思い出でいっぱいの服を着てみようと歌います。
もう一度着たら、案外似合わないことに気づくかも知れないと歌うところに、美和さんが立ち直ったことが現れているように思います。
2番のサビになると思い出でいっぱいの服を脱ごうと歌います。
そして案外平気なことに気づくかもしれないと続く。
そしてサビの最後には<だいじょうぶ 最悪のときはもう すぎているか>と添えられています。

「ねぇ」以降の曲では、こうした関連性はあまり見えません。
ここで一応は美和さんの気持ちの整理がついたのだと思います。
こんな風に、意識してか知らずかわかりませんが、自分の気持ちを乗せて曲を書くタイプの吉田美和さんだからこそ、ここまでリスナーを惹きつけるのだと思います。
お店のBGMでドリカムが流れていて、久しぶりにそんなことを思い出しました。

アイキャッチはドリカムの最新アルバム「私のドリカム」

DREAMS COME TRUE THE BEST! 私のドリカム

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