新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



龍谷大学2022公募推薦入試国語第3問「曽我物語」現代語訳

赤本に現代語訳が載っていないため、現代語訳を作りました。

龍谷大学を志望する人がいらっしゃったら、過去問演習にご活用下さい。

(読みやすさを優先したため、細部に細かな誤釈があります)

 

安元二年三月の半ばころから、兵衛佐殿は北条の姫と深い関係になり、夜ごとに通いなさっていた時に、姫君が一人生まれなさって、たいそう睦まじくお思いになる中で、北条の姫との仲も並でないものとなりなさった。
 そもそも北条四郎時政の子息、小四郎義時は京へ上ることをとどめており、兵衛佐殿を守護し申し上げているときに、妹のところに兵衛佐殿が通いなさっていることを詳しくは知っていたけれど、表情に出さずに心の中で「同じ妹婿であるのに、どうして嫌うことなどあろうか。今は平氏が栄華を誇っている世の流れから外れているというだけである。むしろ血筋といい才覚といい、一族に迎え入れることは自分たちにとっても名誉なことだ。」とお思いになっていた。
 継母の女房は、この様子を見て、「あのように取り計らうのなら、自分が生んだ娘を兵衛佐殿と結婚させるのに」と思って、日々夜な夜な万寿御前(姫)を恨みなさることはこの上ないほどだった。前世からのご縁というものを知りなさらない女性の考えそうなことだが情けないことだ。女房は使いを用いてこのことを都へと告げなさった。北条殿も都から下っている最中であったため、垂井の宿で使いのものと行き合った。北条殿がこの手紙を開いてみなさったところ、思いもよらない婿を姫に取らせるという内容が書いてあり、ひどく動揺した。その驚きももっともである。というのも、北条殿は都で当国の目代である和泉の半官平兼隆を都で婿にとっていたのであった。彼は平家の侍でその一門である上に、都でもこの道中でも、家の者、家来に至るまでに対して互いに親切にし合って、まして伊豆についたあとは、一国の支配を任せると約束していたほどだったので、北条殿は「どうしよう」と思っていたのである。
 それで時政は両目を閉じて、「これまでの事を考えてみると、時政の先祖上野守直方は伊予守頼義公が奥州へ出向いていた時に、北条の屋敷へ参上しなさったときに、婿に取り申し上げて、そのまま奥州へお供し、安定して統治することになった。男の子供がたくさん生まれなさったことからも、源氏と北条氏の縁がいよいよ浅いものではないと考えなさって、将軍の妻にしたということを聞いている。この二人の間に生まれた子たちは八幡太郎義家、賀茂次郎義綱等で、子孫はますます繁栄し、それは末代まで長く続いていることだ。時政の家に源氏を迎え入れれば、同じく末永く繁栄することになるだろう。」と思いをめぐらせていた。「兵衛佐殿の件はそこまで嫌うことでもないのだろう。しかしながら、都で目代を婿にとり、お互いに親切にし合って帰っている道中であるので、どうしたものか」という気持ちも心に浮かぶが、また繰り返し「それならそれでいい。ただしそれならばそのことを知らないふりをして住まいに帰る事はできまい。目代と一緒に伊豆の国府へいきつつ、知らないふりで姫を呼ぶのが安心だろう」と驚く心を落ち着かせて、目代を連れて府庁にお付きになった。(中略)女房の方へは、「時政は目代を連れて府庁へ留まっています。(中略)都で目代を婿にとってきました。急いで姫をお連れ下さい」よあったので、継母の女房はたいそう喜んで、「万寿を目代のほうへつかわすのならば、私の娘を兵衛佐殿とむすばせればよいのか」と内心喜んでいるのは本当にあさましいことである。女房はすぐに姫君を参上させ、「これが北条殿からのお手紙であることよ」と見せられたので、姫君はそれをご覧になると胸もふさぐ気持ちがして、泣くよりほかにどうすることもできなかった。(中略)ちょうどその時、兵衛佐殿はどこかへおでかけになられた後だったため、これまでの二人の仲のことを語り合うこともできない。「とにかくそこへ行くことにしよう」とお思いになったので、不本意ながら出発しなさった。泣く泣く手紙をお書きになって書置きをしようとしなさったところに、兵衛佐殿が用事から帰って来なさった。北の方(姫)は泣き顔でうなだれていらっしゃる。兵衛佐殿はこの御有様をご覧になって、「これはどうしたことなのです」とおっしゃられたので、北の方は涙を押さえて「親にあります時政が、都で私を目代と結婚するように約束してきたということで、府庁からの使いがきたのです。今は親の命令に従おうとしていて、愛するあなたとの別れの苦しみで胸が焼かれる思いです。夫婦として最後まで添い遂げようという思いに違わまいとするならば、親不孝の罪をのがれることができません。どちらをとっても私の気持ちの落ち着きどころがないことが悲しく思います」と伏し沈みなさる姿はなんとも耐え難いものである。