新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



2003年関西大学文学部「古本拾遺集」 現代語訳

赤本に全訳が載っていないので、全訳を作ってみました。
内容の背景を捉えることを第一目標としているので、直訳とは若干異なるところがありますが、ご了承下さい。
順次赤本に全訳が載っていない古典の文章の訳をアップしていこうと思います。

※因みに過去問は東進の大学入試問題過去問データベース から入手可能です 

 

 昔のことであるが、和泉式部のもとに帥の宮が通いなさっていたころ、長らく帥の宮が式部のところへ通わなくなった期間があった。
宮にお仕えする童が和泉式部のもとを訪れたとき、帥の宮からの手紙も無かった。
童が帥の宮のところに帰ろうとしたとき、
「あなたからの連絡を待っていたのに、手紙もいただけないのだなあ。思いがけない来訪者が来て、私のことを思ってくれないあなたの気持ちを知った今日の夕暮れのことです。」
と、和泉式部は手紙を書いた。
 童は泉式部の手紙を持って、帥の宮のもとに帰ってきた。帥の宮はその手紙を見て「本当に長いこと顔を出さないままだったなあ」と心苦しく思い、すぐに和泉式部のもとを訪れた。
 女は端に座って月を眺めていた。帥の宮は庭の植え込みがきらきら光るのを見て、拾遺和歌集にある歌を思い出し「私の愛しい人は『草葉の露』なのだろうか。あなたを恋い慕う気持ちで、私の袖はこんなに濡れてしまったことよ」とつぶやいた。その姿は非常に美しい。
 帥の宮は扇に手紙を挟んで、「あなたに送ろうとした手紙も持たずに使いの童が来てしまったので(改めてわたしが手紙を持って来ました)。」と言ってその手紙を受け取らせた。和泉式部はその手紙を同じく扇で受け取った。「今日は帰りましょう。明日は物忌みですので、私が家に居なければ、不審がられてしまいます。」。帥の宮がそう言ったとき、和泉式部が詠んだ。
  「試しに雨でも降って欲しいものです。そうしたならば雲の宿から出てきて光る月の光もなくなって、あなたが帰らずともよくなるでしょうに。」
式部の詠んだ歌を聞くと、帥の宮は思わず引き止められて、少しの間だけ和泉式部の屋敷に上り、細やかに語らいなどをした。帥の宮は立ち去るとき、
  「ずっと陰っていてはくれず、思うようにならない雲居の月に誘われて私はそろそろ帰らなくてはなりません。月の光が出たから私は帰らなくてはなりませんが、そのことで私の心があなたのもとを離れることなどありましょうか。」
と残した。
 帥の宮が帰った後に、和泉式部が渡された手紙を見ると、そこには
  「私が来ないものだから、あなたは月を眺めているのだと聞いたので、それは本当かと不安に思ってやって来てしまいました。」と書かれていた。
和泉式部は日記に、帥の宮は何事につけても風流でいらっしゃるのに、周囲の人々に軽薄だと思われていることばかりが心苦しいと書き付けた。
 はじめこそ、このように帥殿が和泉式部を好いている様子はあまりないようにも見えたが、後に帥の宮は正妻とも離縁なさって、この式部を正妻としたのだった。