2007年京都産業大学一般AS2月3日「更級日記」現代語訳
赤本に全訳が載っていないので、全訳を作ってみました。
僕が結構好きな和歌のやりとりが収録されている入試問題です。
内容の背景を捉えることを第一目標としているので、直訳とは若干異なるところがありますが、ご了承下さい。
(とくに敬語に関しては、話の筋を理解しやすくするためにあえて無視している箇所が多くあります)
順次赤本に全訳が載っていない古典の文章の訳をアップしていこうと思います。
かつて住んでいた家は、広々と荒れていて、ここに来るまでに過ぎてきた山々にも劣らないほどでした。恐ろしげなほどに木が茂っていて、ここはまるで都の中とも見えない様子です。引越しの整理もまだ終わらず、非常に慌しかったのですが、私がいつしかは読みたいと願い続けていたものでもありますので、「物語を手に入れて欲しい。物語を手に入れて欲しい。」と母にせがむのでした。すると母は、三条の宮に衛門の命婦として仕えている親族の一人を頼りに手紙をよこしたところ、私たちが戻っているということを珍しがり喜んで、三条の宮から頂いた素晴らしく仕上げられた冊子を何冊か、硯の箱のふたに入れてよこしてくれたのでした。私はとてもうれしくてなって、昼夜を問わずこの冊子を読むのに始まり、まもなく他のものも見てみたいと思うようになったのですが、ほかにあてもない都の片隅に住んでいる私が、いったい誰に物語を読ませてくれと頼むことができましょうか、そんな頼りなどあるはずもございません。
私の継母であった方は、父に宮仕えをしていたのですが、地方に赴任することになった時に、思い通りに行かないことがあって、父を恨んで、外に出て行くといって、5歳くらいの子供などを連れて出て行ってしまいました。「私のことを思ってくれたあなたの気持ちは、忘れることなどないでしょう」と言い、たいそう大きい軒先の梅の木を見て「この梅の花が咲く季節には、きっと戻ってきます。」と言い残して出て行ったあの人を心の奥底で恋しく思ってひっそりと泣いているうちに、その年も過ぎていきました。
早く花が咲いてほしい。そのときは再びここに戻ってきましょうといった継母のことを思いながら花を見て待っていたのですが、梅は咲いたのに連絡がありません。悲しくて花を折って、継母の下に
頼めしをなほや待つべき霜枯れし梅をも春は忘れざりけり
(あなたが帰ってくると聴いたので梅の花が咲くのを待っていたのですが、私はまだ待ち続けなければならないのでしょうか。冬に枯れた梅の花さへ春の季節を忘れずにきれいにさいたのに、あなたは戻って来てはくれないのですね。)
と書いて送らせると、しみじみとしたことを書いて継母から和歌が帰ってきたのです。
なお頼め梅のたち枝は契りおかぬほかの人も訪ふなり
(まだ頼りにしてお待ちになっていなさい。梅の花のもとには思いもかけない人が訪れるとも言われておりますのだから。)