新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



2015年龍谷大学公募推薦入試「発心集」現代語訳

久しぶりの現代語訳です。

この現代語訳は文の内容を理解することを優先し、文法に即した訳ではないところがあります。(とくに敬語はそれが内容を複雑にしている場合もあるので、よく省略します。)

内容の確認程度のものですので、逐語訳と比べると細かな違いは多々ありますが、悪しからず。。。

 

 中頃のことだったであろうか、山に貧しい法師がいた。自分がこの世の中を上手く渡っていくことはもう難しいだろうと悩みあきらめて、朝夜と問わず、山王(比叡山の地主神)の下へ参拝をして、涙ながらに祈っていたのだけれど、全くその効果はない。法師はそれをたいそう残念に思っていた。また法師は「山王はきっと私に『前世での行いが非常に悪かったため、いくら祈ったところでその願いは叶うまい』と言いたいのだろうな。やはり私の祈りは聞き入れてもらえないのか。」と恨めしく思い、「それならばどうしたらよいだろうか」と思っていたときに、ちょうど知っている人が稲荷で修行のために籠もっていたので、その者と一緒に七日間神社に籠もり、熱心にお祈りをささげ続けた。
 こうして7日目の夜になった。法師は夢の中で、唐衣をまとった非常に気高く素晴らしい女房が部屋の戸を押し開けて入ってくるのに出会った。その女房は法師の胸元を引きあけて、二寸ほどの多きさの紙切れを押し付けて渡し、帰っていった。法師がこの紙を見たところ、そこには「千石」という文字が書かれていた。法師はそれを見て「素晴らしい神様からの徳を頂いた」と思って座っていた。すると、鳥居の方からたいそう身分の高い人が周辺を召使に囲まれて入ってきた。法師は「誰だろうか、どうしてこれほどの装いでやって来たのだろう。」と怪しんでその者を見ていると、宝殿から先ほどの女房が急いで駆け寄って「どのような理由でこちらに来なさったのでしょうか。思いがけないことでした。」と言った。
 やって来た客人は女房に向かって「もしかしたら桓舜という法師がここに望みを叶えようと来てはいないか」と尋ねた。「その通りです。七日に渡って様々な祈りを熱心に行っていたため、たった今法師の望んでいたものを叶えたところです。」と女房は答えた。すると客人は、「それは、けっしてしてはいけないことなのだ。あの法師は私にも長年祈りをしている。僧として私にすべき勤めはすでに十分すぎるほどなので、何かを与えようと思えば何でも与えることはできたのだが、わざと祈りを聞き入れないでいたのだ。すでに渡してしまったのであれば、すぐに取り上げて欲しい。」と女房に伝えた。女房はそれを聞いて驚いて、「そのようなことがあったとも知らず、大きな過ちをしてしまいました。私が徳を渡した僧はまだそこにいますので、それを取り返すことは簡単です。」と言って、法師の下へやって来て、先ほど渡した紙を奪い取って帰っていってしまった。
 この僧(法師)は「さきほどの客人は、間違いなく山王であったのだ。山王自らが私の望みを叶えることは難しのだろうけれども、他の場所でいただけた褒美まで邪魔をして取り上げるとはどういうことなのだ。」と恨めしさのあまり涙して、その場に座っていた。女房はその姿を見て、「それにしても、どういう理由でわざわざ比叡山から伏見までやってきて、このように法師の望みを叶えることを妨げるのですか。」と聴いた。それに対して客人は「あの僧はこのままいけば必ず往生できる者なのだが、もしここで豊かになったら、そこで執念深くなり、まだ長生きしようという気を起こすだろう。こういうわけで自然に行けば法師にとってよくなることでも、私がわざわざ出向いて妨げて、往生を遂げさせてやりたいと構えているのである。」と答えた。法師はここで目を覚ます。
 夢で聞いた山王のその言葉をかたじけなく思った法師は、比叡山に戻り、現世に対する未練もすっかり断って、ひたすらに来世のための祈りをするようになった。そしてついに往生を遂げることとなった。月蔵房の僧都というのが、この法師である。
 このような話を聞くたびに、とにかく仏神の構えほど素晴らしいものはないとおもうのである。