新・薄口コラム

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



ロジカルシンキングの弱点と美術の強さ

日頃子どもたちに話す時はどうしても聞いてもらうことを第一にするので笑い話に仕上げるのですが、僕は美術を見に行くことが大好きです。
先日友達に「なんで美術館なんて行くの?」と聞かれました。
その時は反射的に「好きだから」と答えてしまったのですが、よくよく考えたらなぜ自分が美術館に行くことが好きなのか、考えたことはありませんでした。
で、そこからしばらくこの問いに対する自分なりの解を考えることになりました。
そして数日後。
その答えが自分なりに説明できたので紹介させて下さい。

もっと知りたいパウル・クレー ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

全くもって威張れることではないのですが、僕な正直どの絵がどのようにいいかはほとんど分かりません。
それでも美術館に行って、いろいろな絵を見たいのは、美術品を通して自分の中の「世界の見え方」が増えると思っているからです。
これは自己啓発的な意味ではなく、実際に見えなかったものが見えるようになるという意味です。
僕たちは普段当たり前のようにものを「見て」いますが、実際は知識があるからそう見えているだけです。
例えば、僕たちは都会のビル群を見たとき、近くのビルが大きく見えて、遠くのビルは小さく見えるように感じます。
しかし、実際は距離が近いと大きく見えて、遠くになるにつれて小さく見ているとは限らないのです。
もし本当に近くにあるものが大きく見え、遠くにあるものが小さく見えるとしたら、太陽は昼と夕方で随分距離が離れたということになってしまいます。
実際なそんなことはありません。
近くにあるものが大きく見えて、遠くにあるものが小さく見えるのは、僕たちの見方に遠近法がそれだけ強く影響をしているからなのです。
僕たちは「近くのものを大きく、遠くのものを小さく描く」という遠近法を知っています。
だから、僕たちの目には近くのものが大きく見えて、遠くのものが小さく見えるのだと思うのです。


同じ話をチームラボの猪子寿之さんが、「雨」を用いて行なっていました。
カイユボットという画家の「パリの通り、雨」という作品には、雨の日のパリの絵が描かれているのですが、そこには傘を持った人たちと、濡れた地面はあっても、「雨」そのものは描かれていません。
僕たちは雨を表そうとすれば、当たり前のように画面に線を引くでしょう。
しかし、「細い線を画面に引いたら雨に見える」というのは、そうやって描かれた雨の絵を見慣れているから「雨」に見えるのであって、実際の雨をよく見れば、線になどなっていないことに気づきます。
雨を線で描くというのは、浮世絵で実践された雨の抽象化であり、僕たちはそこで「雨の見え方」を学んだからこそ、雨が線として「見えて」いるのです。

僕にとっての芸術の役割はここにあります。
どうやって世界が見えるのか、その「見え方」のパターンを増やしてくれるのが、僕にとって芸術の1番の効能です。
大学時代の僕は、ある種のロジカルシンキング原理主義といえるくらいに、論理的思考をすることが大切だと思っていました。
しかし、ビジネスの場でよく言われるロジカルシンキングも、世界の「見え方」の一つのパターンに過ぎません。
もちろん何も尺度となる見え方を持っていない人にとっては、ロジカルシンキングは非常に便利な見え方でしょう。
しかし、物事の「見え方」はロジカルシンキングだけではありません。
ロジカルシンキング原理主義だった当時の僕にとっては、論理的に分解することこそが世界を正しく見る方法だと思っていたのですが、実はそれ自体が一つの価値観に過ぎないわけです。
あるデータを平均で比べるのか分散で比べるのか、それとも中央値を見るか、最頻値を見るか。
そういったパターンの違いと同じようなものです。
ロジカルシンキングが大切だと言い切っているのは、数字を平均値でしか分析できないのと同じように感じるわけです。
そんな風に思うきっかけになったのが、僕にとっては芸術です。
過去の作家が提示した「世界ってこう見えるよね」ということを収めた作品に触れると、「見え方」の引き出しがどんどん増えていくのを感じます。
ロジカルシンキングならばこうなるけど、別の見方で考えたらどうなるだろう。
何かを考える時に全く違うアプローチができるようになるわけです。

今の社会では、とかくロジカルシンキングこそが大切と思われている節があります。
だからこそ、別の見え方を知っていることが武器になる。
そんな風に思うからこそ、僕はかなり意識していろいろな「見え方」を取り込もうとしています。
その手段の一つが、僕にとって美術館に行くことなのです。


アイキャッチはモネの解説書

もっと知りたいモネ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

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