僕はこの作品が選定されたことに関して、とても時代のトレンドを反映させているように感じました。
-あんなに確かに在るものが まだここからは見えないだけ-
おそらく通常の理解で行けば、「子供の間には見えない様々な出来事が世界にはある、世界は広くて面白い」という意味で捉えるのが妥当でしょう。
というか、作者がこの作品を書いた年代や、「年若い友へ」という副題をみたら間違えなくこれが作者の伝えたいことだったはずです。
ただ僕は、この作品が2010年の今掲載されて、子供たちを囲んでいるコンテンツの流れから見たとき、別の意味が付加されるように思います。
この作品を今の子供たちが触れているコンテンツの中で理解しようと思った時、僕の頭には次のような作品が浮かびました。
また、いずれの作品もマンガとして大ヒットをしています。
僕がこれらの作品を読んで共通項を感じるのが、「守られた狭い世界とその外に広がる無秩序な世界」というテーマ性です。
ONE PEACEでは、主人公が過ごしていた世界の外にグランドライン、そしてその先に「新世界」と呼ばれる場所が広がっています。
グランドラインに行けばそれまでの海では想像もできなかったようなことが次々と起こり、そしてそれは新世界に行くと一層強まります。
守られた世界が、主人公ルフィの故郷のある海で、グランドラインが無秩序な外の世界。
HUNTER×HUNTERでは無秩序な外の世界を「暗黒大陸」と呼びます。
まだ明確な描写は描かれていませんが、そこでは人類の想像のはるか上をいく危険に溢れているようです。
トリコの場合はこれが「グルメ界」になります。
このところずっとグルメ界篇が続いているので忘れてしまいがちですが、トリコの作品の中では、人々が暮らす人間界の外に、はるかに広がるグルメ界が存在します。
当初そこは、楽園と思われていたが、実態は生きて帰ってくるものが殆どいないような過酷な世界だった。
これが、トリコにおけるグルメ界の設定です。
世界の内と外の問題を扱った作品の象徴とも言えるのが進撃の巨人でしょう。
「壁」という設定を通して、1番直接的に守られた内側の世界と、無秩序な外の世界を描いています。
そして、個人的に驚いたのがFAIRY TAILにおける外の世界の描写です。
今進んでいる話の中で(恐らくこれが最後の話になるのだと思います)アルバレス帝国という存在が登場しました。
設定は確か、自分たちが暮らす大陸の向こうにある、途轍もない魔導師たちが溢れている場所だったと思います。
それまでの物語の中では、アルバレス帝国という存在は殆ど描かれていません。
ここに来て読者の頭の中にできていた作品世界の全体像を広げてくる。
これも広義の内側の世界と外側の世界と言えるでしょう。
僕は、作品の中で守られた内側の世界と無秩序に広がる外の世界が活発に描かれるようになったのが2010年代の特徴であると思っています。
(ONE PEACEの新世界編が2011年、FAIRY TAILのアルバレス帝国編が2015年です)
世界観が全く違うこれらの作品の中で、同様のモチーフが同時に描かれることに、時代の空気を感じます。
そして、この文脈で牟礼慶子さんの見えないだけを読むと、本来の解釈とは違う読み方もできると思うのです。
こうした視点で僕が感じたのが「君たちはまだ見ぬ無秩序な世界に飛びさなければならない」というメッセージです。
恐らく、牟礼さんの伝えたいメッセージは「世界は面白さに溢れている」ということだったのだと思います。
しかし、今の子供たちの周りにあるコンテンツの文脈で「あんなに確かに在るものが まだここからは見えないだけ」という文を読むと、君たちは守られた内側の世界ではなく、無秩序な世界に飛び出さなければいけないという強いメッセージとして捉えることもできると思うのです。
もちろんこれは僕の半ば強引ともいえる邪推で、こんなもの「教科書的な」正解ではありません。
ただ、読み手がどう受け取るかという意味で、こうした読み方もあながち間違えではないのかなあと思ったりするのです。
「読み方」は人それぞれなので、こんな読み方を推奨する気はありません。
ただの僕の感想です(笑)
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