新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



テスト前日に確認したい夏目漱石「こころ」解説①こころが読み易くなるために必要なたった一つのある「視点」

多くの学校で高校2年生になると勉強することになる、夏目漱石の「こころ」。
内容の面白さ云々の前に、単純にページ数が多かったり、使っている言葉が難しかったりという部分から、毎年多くの高校生から意味が分からんという声を聞きます。
解説を求められることも多く、実際にいろいろな学校の説明の板書やウェブ上の解説を読んでみたのですが、どうも「授業的な詳しい解説」であったり、「教育的に正しい」解説であったりというところを重視しすぎているせいで、難しくなってしまっているものが多いように感じます。
そういった「正しい」解説や「詳しい」解説は既に十分過ぎるほど存在するので、僕はあくまで直感的に内容を理解しやすいことを目標に内容を解説したいと思います。
因みに、細部で正確な解釈とは異なる部分があるかもしれませんが、あくまで直感的な分かりやすさに重点を置いていますので、その点はご理解ください(「正しい」説明でないことは僕も重々承知しています 笑)。

「こころ」という作品に向かうときの最大のポイントは「好きな人ができたときの心情」を強く思い出しながら読むということです(笑)
こう書くとふざけるな!と思われてしまうかもしれませんが、そもそも「先生」の行動原理は全てそこにあるわけなので、作品に入り込むためには意外に重要な視点となってきます。
例えばクラスにずっと密かに好きな人がいて、親友と二人でマックやミスドで会話している時に、明るい声で「私〇〇の事が好きになってん!」と自分と同じ人の名前を言われたらむかつきませんか?
或いは、恋愛になんてまるで興味のない友人とテスト勉強をしていて、彼氏や彼女からのLINEに返信していたらいきなり「勉強に集中もせずに彼氏(あるいは彼女)と連絡しているとかアホちゃう?」と言われたらむかつきませんか?
むちゃくちゃ難しい言葉や言い回しが使われていますが、先生がKに対して抱いている気持ちは基本これと同じです(笑)
親友から「私〇〇の事が好きになってん!」と語られるのが先生とKの場合だと4段落目にあるような「彼はいつもにも似ない悄然とした口調で、自分の弱い人間であるのが実際恥ずかしいと言いました。そうして迷っているから自分で自分が分からなくなってしまったので、私に公平な批評を求めるより外に仕方がないと言いました。」という表現になります。
今の言葉で言えば、「俺、たぶんあの子(お嬢さん)のことが好きになったと思うんだけど、勉強とか忙しいし、どうしたらいいと思う?」です。
これを、Kよりもずっと前からお嬢さんのことが好きだった(しかもそのことを以前それとなくKに相談したら「恋愛に気持ちが持っていかれるやつは馬鹿だ」と言われた)先生に対して打ち明けたわけです。
そりゃ先生もむかつきますよね。
自分が好きだった人のことをKも好きになってしまい、しかもKは先生もお嬢さんのことを好きだということを知らない。
前半は、先生が遠まわしにKがお嬢さんから手を引くように仕向けるはなしなんだという理解をしておくと、途端に読み易くなります。

この視点から最初の節の描写やセリフを見ていきたいと思います。
まず1段落目の「私はその時に限って、一種変な心持ちがしました」という部分。
先生はここ数日でKがお嬢さんのことを好きになったことに気がついています。
そんなKから「ちょっと相談がある」と言われたわけです。
ここで感じた「変な心持ち」とは、Kからお嬢さんが好きになったという告白であると捉えるのが妥当でしょう。
二段落目で、先生はKの誘いに対して勉強が終わったあとなら相談に乗ってやると返します。
しかし、実際には先生はまるで調べ物に集中できません。
そりゃ、これから親友から自分がずっと好きだった女の人を「自分も好きになった」と言われるなんて、気が気ではありませんよね(笑)
先生もそんな心情だったのか、読みかけの資料を伏せて勉強を切り上げ、Kを散歩に誘います。
一方そんな先生に対して「勉強はもう済んだのか」と間抜けな質問をするK。
ここでの先生の気持ちは書いていなくても十分に想像がつきます(笑)
次の段落でいよいよKは先生にお嬢さんが好きになったことを告白します。
そして次の段落で先にも書いたように、「自分の弱い人間であるのが実際恥ずかしい」「迷っているから自分で自分が分からなくなってしまったので、私に公平な批評を求めるより外に仕方がない」と自分がお嬢さんを好きになったことをと先生に伝えるのです。
先生はこのKの言葉に対して、「退こうと思えば退けるのか」と聞き返します。
これ、普通に聞けば親友の相談に対する丁寧な回答ですが、先生もお嬢さんのことが好きで、そのことをKには知られていないという場面を考えると、むちゃくちゃ嫌味な言い方です。
先生の意地悪な質問に苦しい表情で固まるK。
最後に先生が「もし相手がお嬢さんでなかったならば、私はどんなに彼に都合のいい返事を、その渇き切った顔の上に慈雨のごとく注いでやったかわかりません。」と言ってこの節は終了します。
しかもご丁寧に「私はそのくらい美しい同情をもって生まれてきた人間と自分ながら信じています。」と一旦自分を持ち上げた上で(笑)

こんな説明では、一度でも読んだことのある方にはふざけるなと言われてしまいそうですが、あえて作品に入り込みやすいように、こんな解説にしました。
次節以降も内容を先生の複雑な気持ちをデフォルメして内容を追っていこうと思いますので、そちらも宜しくお願いします。

 

 アイキャッチはもちろん夏目漱石の「こころ」。キンドル版で無料で読めますので興味のある方はぜひ!因みに今回まとめたのは「下 先生と遺書」の40節です。

こころ

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