新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



テスト前日に確認したい「南の貧困/北の貧困」が難しく感じる理由と理解のしかた

高校生の現代文で登場する見田宗介先生の『南の貧困/北の貧困』。
この文章のあたりから急に内容が難しくなったと感じる人も多いよう思います。
もちろんいろいろな原因はあると思うのですが、最大の理由は「主張が直感的に分かりにくい」ところにあるのではないでしょうか。
それまでの現代文で扱う文章ならば、途中に多少難しいことが書いてあっても、比較されている内容であったり筆者の言いたいことだったりを読めば「ふ~ん」と理解することができました。
例えば『水の東西』ならば、「西洋は〇〇、日本は〇〇」と言われれば、「確かにそうかも!」という感じです。
ところがこの作品のあたりから、だんだんと主張だけ見ても直感的には理解できなくなります。
これが、『南の貧困/北の貧困』くらいから急激に難しくなる理由です。

僕は『南の貧困/北の貧困』が読めるかどうかのポイントは「それって本当に正しいの?」という視点があるかどうかだと思っていて、それを直感的に理解してもらうために、次の2つの例を出して説明します。
①背が高いと女の子にモテるから、牛乳をいっぱい飲みなさい。
②背が高いと女の子にモテるっていうけど、それって本当なの?
高校入試に出てくる文章や、これまでの現代文で習ってきた文章の多くは①のように「AだからB」という書かれ方をしているものが殆どです。
それに対して『南の貧困/北の貧困』では、「Aって言われるけど、それって本当に正しいの?」というように前提自体に疑問が投げかけられています。
それまでルールを前提に話が進められる論説文しか読んだことがなかったのに、急にルール自体が正しいのかについて書かれてしまうから、何が言いたいのか分からなくなってしまうわけです。
昨日まではミーティングでサッカーの試合に勝つための戦略を話し合っていたのに、今日顔を出したらいきなり「サッカーのルールってこれでいいのか?」という議論をし始めたみたいな感じ(笑)
『南の貧困/北の貧困』を理解するためには、まずは筆者が何に対して「それって本当に正しいの?」と言っているのかを理解する必要があります。

見田宗介先生が『南の貧困/北の貧困』で「それって本当に正しいの?」と言っているのは「貧困」についてです。
一般には「1日1ドル以下の生活をしている人は貧困でかわいそうだから、仕事を作って助けてあげよう」って言われるけど、本当にそれで貧しい人は救われるの?
細かな部分に目を瞑ってざっくりと説明すれば、筆者が言いたいことはこんな感じです。
(あくまで文章を直感的に理解するのを目的として、非常に大まかな解釈で説明を書いていますので、専門知識がある方の知識に関するツッコミはご遠慮ください 笑)

「途上国人は収入が少なくてかわそうだから仕事を作って助けてあげようっていうけど、アイツら自分で食べ物作ってるし、お金を稼げるようにすることが大切だとは限らなくない?」
これが(雑にいえば)筆者の主張です。
ドミニカやアマゾンの先住民の中には確かに1日1ドル以下で暮らしている人たちがいます。
もし日本で生きている僕たちが1日1ドルならば、毎日買えるのはコンビ二おにぎり一つくらい。
当然こんなんじゃ生きていけません。
この価値観で「1日1ドル」と聞くと、むちゃくちゃ貧しい生活に思います。
しかし、実際には彼らはご飯を買わなくても自分で作物を育てたりしています。
ドミニカやアマゾンの先住民たちには、そういった「お金で買う必要のない」生活の手段があるわけです。
お腹が空いたらスーパーやコンビニに買い物へ行かなければならない人にとっての「1日1ドル」と、食料などの生活に必要なものは自分たちで作った上での「1日1ドル」では勝手が違います。

では、そんな人たちに対して「君たちは貧しいから働き口を作ってお金を稼がせてあげよう」ということをしたらどうなるでしょうか。
たとえば、1ドルを稼ぐためにドミニカやアマゾンの先住民たちが1日8時間働くようになったとします。
そうすると、それまでやっていた農業を手放さなければならなくなるので、1ドルの稼ぎができた替わりにそれまで「無料」で手に入っていた食料は作れなくなってしまうのです。
確かに名目上は1ドルの収入が増えたことによって「貧困」は脱出できたということになりますが、彼らは食料を作れなくなった分を手にしたお金で買わなければいけません。
これでは意味がありませんよね?笑
「貧困は、金銭を持たないことにあるのではない。金銭を必要とする生活の形式の中で、金銭を持たないことにある。」
「貨幣からの疎外の以前に、貨幣への疎外がある。」
こういった筆者の言葉は、上に挙げたようなことをいっていると解釈すればいいでしょう。

今回は『南の貧困/北の貧困』の大まかな主張についてざっくりとまとめました。
(いつになるかは分かりませんが)次回以降は段落ごとの内容について見ていきたいと思います。

 

南の貧困/北の貧困について解説した関連エントリです
テスト前日に確認したい「南の貧困/北の貧困」が難しく感じる理由と理解のしかた - 新・薄口コラム
テスト前日に確認したい「南の貧困/北の貧困」②「貧困」の定義を考えることで筆者の主張を追いかける - 新・薄口コラム

 

アイキャッチは『南の貧困/北の貧困』が収録されている見田宗介さんの「現代社会の理論」 

現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来 (岩波新書)

現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来 (岩波新書)