新・薄口コラム

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マンガ・アニメ考察21美大受験戦記アリエネ〜山田玲司先生の描く主要人物は皆心に影がある

僕のお気に入りのマンガの一つ、山田玲司先生の美大受験戦記アリエネ。
ずっと扱いたかったのですが、好きであるが故にうまく良さを表す自信がなく、触れることができずにいました。
ちょうど今週の水曜日に、山田先生の番組でアリエネを取り上げるということだったので、この機に紹介させて下さい。

山田玲司作品の最大の特徴は、主要人物全員が影の部分を持っていること

山田玲司先生の作品を読んでいて僕が一番感じたことは、どうしてこんなにも登場人物がみんな影を背負っているのだろうということでした。
山田先生の作品は、一見すると明るいムードメーカーのようなキャラクターが多く登場しますが、登場するどのキャラクターもふとしたところで影の部分を覗かせるように思います。
特に主人公とヒロインにその傾向が強い。
代表作のBバージンでは、主人公の住田秋は自分の本当に好きだったものと過去のコンプレックスを全て封印して生きることに迷っていています。
ヒロインの桂木ユイはいつもニコニコしている明るい女子大生。
ノリが良く、色々な男と仲良くなるけれど、SEXだけは頑なに拒みます。
その理由は最終巻で、心を許した秋と離れることになる最後の最後で明らかにされ、ユイの不意にみせる暗さの正体がわかります。

その後に描いたアガペイズでも、主人公のユリとヒロインの渦雨の両方が、それぞれ影を持っています。
そして、アリエネでもそれは変わりません。
主人公の歌川有もヒロインの葛飾夢も、一見すると明るいキャラクターです。
しかし、それぞれ悩みやコンプレックスを持っていて、それがふとした場面で出てきます。
周囲を固める人物も、一見恵まれているように見えて、その誰もが影の部分を持っています。

僕は、作品の中に出てくる「明るく振る舞うけれど実は影を背負ったキャラクター」が山田先生の最大の特徴だと思っています。
山田先生自身がしばしば人前に出るときにネガティブを撒き散らさないようにしていると言っているのですが、登場人物たちにはそんな山田先生の考え方が反映されています。
山田先生の作品のキャラクターたちからは、全ての人が現代社会の中で傷ついていて、それを隠して明るく振舞っているんだという、先生の社会の見方が伝わってくるようです。
どのキャラクターにもきちんと影と今の生き方の理由を与えるという、山田先生の愛情があるからこそ、感情移入できる魅力的なキャラが多いのだと思います。

アートうんちくの面白さ

キャラクターについてあれこれ書きましたが、アリエネのもう一つの魅力は、これでもかと散りばめられた絵画うんちくにあります。
雑学を意図的に入れたような作品を読むと、どうしても説教くさくなってしまうと思うのですが、アリエネの中に出てくる絵画の雑学からは、全くそういった感じをうけません。
これは山田玲司先生の天性の「面白しゃべり」の才能が最大の原因だと思います。
単に絵画の知識を並べるのではなく、それを描いた作者の当時の気持ちや時代背景、そこに込められた想いなどを、一つの物語にして説明してくれます。
そのため小難しくなることもなく、絵画好きでなくても引き込まれます。
ファインアートについて全く触れたことがない人が読んでも、絵画が少し好きになるような気がします。

成功するための努力の量を教えてくれる

作品のよさとは別に、僕が個人的に面白いと思っているのが、成功するために必要な努力の量を教えてくれているところです。
アリエネは、山田玲司先生の実体験を元に描かれた半ノンフィクションマンガです。
埼玉一のバカ高校(偏差38)に入学し、3年になるときに美大を目指し、現役で多摩川美大に入ったというのは本当の話。
毎週学校で見せるように描いていたネームの数も、中学時代に持ち込みをして心が折れかけたというのも、全部本当の話だとか。
山田先生は、当たり前のことのように描いていますが、そこでやっている有の努力は尋常ではありません。
マンガ家になるために、夢中になって毎週20ページくらいを書く、そして美大に受かるために朝から気づいたら塾が閉まるまで書き続ける。
こういったことが当然のこととして描かれています。
おそらく山田玲司先生にとっては、成功するためにはこの位の努力は当たり前に必要と思っていはということなのだと思います。
夢を叶えるには努力が必要とよく言いますが、具体的にどの程度の努力が必要かということを聞くことは案外少なかったりします。
アリエネの有が、ひとつの夢を叶える基準になる数値目標のようなものを示しているように思うのです。
そしておそらく成功するための必要な労力としては、かなり妥当な線を僕たちに提示してくれているような気がします。
何かで成功したければ、思っているよりもずっとずっと努力が必要だということを、教えてくれます。
そしておそらく本人も自覚せずに、そうした所が滲みでているのだと思うのです。

山田玲司先生の得意のラブコメ要素と、専門分野である美術をテーマにしているということで、Bバージンなどの以前の作品とは違う面白さがあります。
そして「絶望に効くクスリ」を通ったことで読んでいて気分が軽くなる作品です。
ページをめくるたびに気持ちがラクになるマンガ。
Bバージンとは違った形で、強すぎる作家性を隠すことができているような気がしました。
代表作はBバージンと言われていますが、個人的にはアリエネが山田玲司先生の作品の中で1番好きな作品です。


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