新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



四二段 2015年龍谷大学公募推薦「平中物語」現代語訳

赤本に現代語訳が載っていないので訳してみました。
過去問研究の一環でざっと訳している物語なので、細かな違い(時に大きな読み間違えがあるかもしれません..)はご了承下さい。
また、あくまで話の筋を追うことを第一に訳しています。
そのため、文法事項や敬語はあえて無視しているところがあります。

 


またこの同じ男には、噂には聞いていたが、まだ言葉も交わしたことのない女性がいた。何とかして言い寄ろうと思う気持ちがあったので、しばしばこの家の門の前を歩いていた。こんな具合だったのだけれど、女に言い寄るあてもなかったところ、ある素晴らしい月夜に、いつものごとくこの家の門の前を通ると、女たちが多くそこに集まっていた。男は馬から下りて女性たちに声をかけた。女たちから返事があることを男は嬉しく思い、そこにとどまっていた。女たちは、男がお供に連れていた者に、「彼は誰なのでしょうか。」と聞いたとこと、「(もしかしたら噂で名前はご存知かもしれませんが、しかじかという)その人です。」と答えた。女たちはそれを聞いて、「噂には聞いたことがありますがまさかその人とは。それならば家に招いてお話でもしましょう。」「どういった理由でここにいたのかも聞いて見ましょう。」などと言い合う。女たちの中の一人が「せっかくでしたら、この庭に出ている趣深い月も楽しんでいってもらいましょう。」と言ったので、この男「なんて良いことでしょう」と言って、一緒に屋敷に入っていった。女たちは御簾の内に集まって、「それにしてもどういった縁でしょうか、噂に聞いていたような身分の高いあの男性が、現実にこんな所にやってきて、一緒にお話しなんかができるなんて。」屋敷に仕えるいろいろな者に言い交わしていた。例の男と一緒にちょっとした事を話したり、女の中にはこの男に心惹かれ、熱心に語り合うものもいた。集まって話をしているうちに、男も不思議と嬉しくなってきて、よくぞ言い寄ったと思って時間を過ごしている程に、この男が乗っていた馬が、何かに驚いたようで、綱を引き放って逃げてしまった。お供のほとんどは逃げた馬を追いかけていき、一人だけがその場に留まり、例の男に気付いてもらえるようなそぶりで屋敷の前を歩いていた。男はそんなお供の者の姿を捉え、その様子がばつが悪く思えて、屋敷に招いて「どうしたのか」と聞いた。お供の者が「このようなことがあって」と事情を説明すると、男は「早く隠れなさい」といって、奥へと追い込んだ。その様子をみた屋敷の女たちが「どうかしたのでしょうか」と尋ねてきたので、男は何事もなかったそぶりで「何でもありません。私が乗ってきた馬がものに驚いて逃げてしまったようなのです。」と答えた。女たちがそれを聞くと、男の言葉に反論するように、「いいえ。それはきっとあなたが夜になっても奥様の下に顔を出さないものですから、あなたの奥様が嫉妬からあなたに行ったいやがらせか何かでしょう。なんと恐ろしいことでしょう。ちょっとした気晴らし程度のことまでもやかましく追求するような奥様をお持ちのような方とは、親しくお話しすることもできません。」と不快な様子でつぶやきながら、みんな屋敷の奥へと戻っていってしまった。男はこうした態度の女たちに向かって「なんて残念なことだ。全くそのように妻がしたのではなく、単なる偶然だというのに」と言ったのだが、すでに女たちは屋敷に入ってしまい、男の弁明は単なる独り言になってしまった。返事をする人もいなかったので、男はあきらめて屋敷の外に出た。翌朝の時雨に打たれながら、男は一首、こう詠んで送った。

その夜に、憂き名をもらい(誤解をされて)しかたなく帰り路につきました。名取川を渡っていると、ちょうど既に涙で濡れた袖に時雨が降ってきたのです。

女からの返しにはこうあった。

時雨がしきりに降るあなたの古い家だから濡れてしまったのでしょう。もしかしたら雨に紛れて濡れていた袖の涙と言うのは、私が隠れてしまったことを悲しく思ってくれたからなのでしょうか。

こうした返事に男は喜んでまたものなどを言って送ったのだけれど、返事は無かったため、やりとりは自然になくなった。

 

龍谷大学・龍谷大学短期大学部(公募推薦入試) (2016年版大学入試シリーズ)

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