新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



目的志向/合理主義の限界と「ものづくり」で得られる価値

僕の家系は母方が大工をしていて亡き祖父は大工の棟梁、父方の家系は配管工ということで、小さい頃から「ものづくり」が身近にある環境でした。

物心ついたころから、ゲームや友達と遊ぶことは大好きでしたが、一方で作業場にある木材や工具であれこれ工作をしているような子供でした。

中高となって、工作をすることは減りましたが、今度は音楽を作ったり、手品を作ったり。

有形/無形を問わず、僕はいつも「ものづくり」に囲まれていました。

そんなわけで、僕は意外とものづくり至上主義なタイプだったりします。

マーケティングロジカルシンキングでビジネスをしようとするよりも、まずものを生み出せるスキルをつけろよ!みたいな...笑

確かなコンテンツありきのマーケティングだろうと思うんです。

 

「ものづくり」に僕が重きを置く最大の理由は、そこから得られる圧倒的な情報量にあります。

ひとつの作品を形にしてみるというのは、本当に様々な知見が得られます。

これは数値や評価で到達度を決める、ゴールありきの戦い方をする中では絶対に得られない情報群だと思っています。

 

ものづくりを通して得られる経験を体系化してみる①ゼロイチ編

先日、久しぶりにyoutubeのアップロード動画を見てみたら、学生時代に初めて編曲までやってみた曲が出てきました。

www.youtube.com

やり方も何もわからない状態で編集ソフトを手に入れて、とりあえず形にしようと作ったものなので、今振り返れば酷いクオリティだなあと恥ずかしさしかないのですが、だからこそ得られた情報量の話をするのに適しているのではないかと思い、恥を晒すことにします(笑)

一曲を仕上げる過程には様々な工程が存在します。

ビジネス風に言えば、まずコンセプトを決め、そこから構想を練って...みたいなのが「正しい」のでしょうが、実際に手を動かしてみればそんなにうまくいかないということを、すぐに実感します。

僕の曲づくりもそうでした。

この曲が出来た過程を示すと、以下のような感じです。

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①パッとAメロの1フレーズが思いつく

②Aメロにコードをつける

③続きのコード進行を考える

④コードに合わせてBメロ/サビを作る

⑤歌詞を考える

⑥前奏から編曲をしていく

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一曲を形作る過程で得られる最も大きな学びは、「縛りが生まれることで続きが分かってくる」という感覚でした。

始めは出だしのメロディが浮かんだ時に、そのままメロディだけ完成させてしまおうと思っていました。

しかし、いざ作ろうと思っても頭に何も浮かびません。

そこで先にAメロのコード進行を考えました。

Aメロのコード進行を完成させたタイミングで、それを受けたBメロ、サビはどのようなコード進行が自然かということを考えるようになります。

そうすると、メロディでは全く浮かばなかった先の展開が、コード進行であれば見えてくるのです。

このAメロのイメージを受けたBメロであれば、このコード進行が適切じゃない?みたいな感覚です。

そしてBメロ/サビのコード進行ができた上で、改めてメロディを考えたのですが、そうすると今度は「コード進行」という縛りがある為、ある程度スムーズにメロディが浮かぶようになっていました。

そうしてできたのがこの曲の原型でした。

 

この過程で僕は①ゼロからイチを生み出す過程にはコンセプトもクソもないということと、②ある程度の縛りが生まれることで発想は加速するという経験を得ました。

 

ものづくりを通して得られる経験を体系化してみる②1→10編

曲の原型ができて次に行ったのは作詞です。(恥ずかしいからyoutubeには歌詞を載せていませんが...笑)

曲の書き方には作詞からする方法や作曲からする方法、一気に編曲から始める方法といろいろあり、僕自身もいろいろなやり方を試したことがありましたが、この曲に関しては作曲→作詞という手順を踏みました。

いきなり冒頭から歌詞をつけていこうとしても、もちろんうまくいきません。

そこで、何度もできた曲を聴いて、パチっとはまるフレーズがないかを考えていきました。

その結果サビの後半部分(2:15)のメロディに「空の青さを言い訳にして」という言葉がパチっとはまることに気がつきました。

そこから1番のサビを書き上げました。

サビの歌詞ができてからは、それを受けるとしたら他にどういう歌詞があり得るかを考える作業です。

その結果次にできたのが2番のサビの冒頭部分(3:45)でした。

ここに「不意に降り出した予想外れの雨に助けられた」という歌詞が浮かびました。

この2フレーズができた瞬間、僕の中でこの曲のコンセプトがはっきりしました。

少し悲しいメロディに、「空の青さを言い訳に」「予想外れの雨に助けられた」という歌詞。

この辺から「一般に良いものだけど今の僕には悲しいもの」「他の人にとっては嫌なものだけど今の自分にはありがたいもの」みたいなイメージが鮮明になりました。

そしてこうしたイメージを抽象化したらどんな場面が適切だろうと考えているなかで「別れ」の場面だと考えました。

同時に「不意に降る雨」というモチーフは「悲しさ」と同時に「すぐに止む雨」というイメージだなあと思いました。

しかし、今の目の前に揃っているメロディや歌詞の部品を見る限り、前に歩き出せるほどポジティブなものではない。

これらを合わせて僕の頭に浮かんだのが、「好きな人と別れて切り替えようと思うけれど全然前を向けない男」というイメージでした。

そこからもう1つ掘り下げて、僕がこの曲を作る際のコンセプトとして考えたのが「いつか前に進めるように」です。

で、「すぐに晴れるのは分かっているけれど、その瞬間はとてもそうは思えない」みたいなイメージにあうものと言えばという形で浮かんだのが「スコール」。

このタイミングで初めて曲のコンセプトが決まりました。

で、コンセプトが定まってからはスムーズです。

一気に歌詞は仕上がりました。

 

この歌詞づくりの過程で得られた経験は、③フレーズ単位で部品を集めていくというアプローチの大切さ、④コンセプトは自分の意思ではなく掘り起こすもの、⑤深堀りの重要性あたりでしょうか。

とにかく学びの多い過程でした。

 

ものづくりを通して得られる経験を体系化してみる③10→100編

曲も歌詞もできたら最後は編曲です。

この曲以降もいくつか編曲までやった曲はあるのですが、その時に痛感したのがコンセプトの重要性でした。

編曲では、ピアノ、ストリングス、ギター、ベース、ドラムetc...と様々な音を重ねていかなければなりません。

そのため、1つにまとめ上げる指針=コンセプトがないと、全然うまくいかなくなってしまうのです。

 

この曲の場合はコンセプトがはっきりしていたので、編曲では「雨」、もっと言えば「スコール」感が出るように意識をしていきました。

前奏から淡々と流れるピアノのモチーフに対していきなりなるクラッシュシンバルの音は、そこで急に降り出すスコールをイメージしたものです。

そして、全体的に沈んだ印象を保たせるために、ストリングスは暗い印象にしました。

で、ずっと淡々と流れる印象を維持したいためピアノを中心に音のバランスを組み立てていきました。

後は、楽器同士が音を食い合わないようにバランスをとって音を置いていきます。

最後のサビの手前で、伴奏がピアノ一本になりますが、ここは一旦歌詞に注目して貰いたい(=心情に気持ちを寄せて貰いたい)という意図からしたものでした。

そして、直後に全部の楽器の音を重ねたのは「スコール」という曲のモチーフを忘れて欲しくないから。

そして、最後はクラッシュシンバルで表現していたスコールのおとは消えますが、これは、曲の冒頭で降り始めたスコールがもう止みかけているという時間経過を表すことができたらと思い入れた演出です。

雨は止むけれど、まだまだ気持ちは前に向いていない。

そんなニュアンスが伝わればいいなと思い、最後まで鳴っているのはピアノのメロディだけにしました。

以上がこの曲の編曲をした時に僕が考えた意図です(かなり昔の話なので、うろ覚えですが...)

 

編曲の時に学んだのは、⑥個々の楽器が一番心地よい音と全体の中で良いものは違うということ⑦細部の作り込みが仕上げたあとのイメージを変えるということあたり。

 

ものづくりに学ぶ

というわけで、初めて曲を作った時のことを思い出しながら当時の発見や意図をつらつらと書き並べてみたのですが、改めて思うのは、1つの物を作る過程で使う思考量や試行錯誤の量は本当に膨大だなということです。

とかく最近は合理化、スピード、KPIといった、いかに最短経路で目的にたどり着くのかという「目的志向型」が流行っていて、そうしてできるショボくても最低限目的にかなったアウトプットが評価されがちな気がします。

もちろんそれはそれで良いと思いますし、実際にビジネスの場ではそれが正解だったりする場合も多いのですが、全ての領域にその理論を当てはめるのはどうなのかなと思ったりします。

特に、こういう試行錯誤や思考を繰り返した事のない人が言う「目的志向至上主義」には、僕は少ならかず思うところはあります。

だから、結果主義、目的志向の人ほど、長期的に必要になるスキルは「ものづくり」の中で得られる経験なんじゃないかなと思ったりするわけです。

もともと合理化や論理的思考といったものは、こうした様々な無駄や寄り道をしてきた人間が、自身の経験から無駄を省いた結果たどり着いたものであるというのが僕の持論です。

それを、初めから無駄がない無菌培養みたいなことをしてノウハウだけ得たところで、長期的には武器にも何にもならないような気がしています。

そんなわけで、今、戦略的に考えても役に立つスキルは「ものづくり」なんじゃないか。

そんなことを最近思っています。

 

アイキャッチはちょうど「泥臭く経験を積み上げるVS合理的にコンテンツを生み出す」の戦いが描かれたバクマン。のこの巻。

バクマン。 14 (ジャンプコミックス)

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  • 作者:小畑 健
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2011/08/04
  • メディア: コミック