新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



BUMP OF CHICKEN『SOUVENIOR』考察〜言葉の2重性と贈り物の真の意味〜

9月の29日にリリースとなったBUMP OF CHICKENの新曲『SOUVENIOR』。

この曲はアニメ「SPY×FAMILY」のタイアップ曲となっています。

タイアップということで、当然アニメと関連付いているところもあるこの楽曲ですが、僕の中でBUMP OF CHICKENの歌詞を考察する際にはあまりタイアップ作品に引っ張られすぎてはいけないというのがあります。

例えば、中田ヤスタカさんやzoppさんと言った人たちの場合、まず作品ありきで作られている様に感じるのですが、藤原基央さんはもちろん作品のモチーフには対応しているのですが、それよりも歌としての完成度を求めている様に感じるのです(これはOfficial髭男dismの藤原聡さんもそうですが)。

そこで今回はあえて「SPY×FAMILY」を前提とするのではなく、接点として触れつつ、歌詞そのものを考察していきたいと思います。

 

「SOUVENIOR」というタイトルの2重性

さて、あえてアニメには多く触れないと言っておいて初っ端に「SPY×FAMILY」について語るのもアレですが(笑)、タイトルはやはり初めに触れておきたいので、少しだけアニメと関係しつつ語りたいと思います。

SPY×FAMILY」は日常生活の裏で「スパイ」をする主人公ロイド、「殺し屋」をやるヨル、「エスパー」として心が読めるアーニャの3人が、ひょんなことから素性を隠して一緒に暮らす作品です。

作品そのものが「2重性」がテーマになっています。

その意味からいうと、僕は「SOUVENIOR」というタイトルは気になってしまいます。

「SOUVENIOR」はドイツ語では「お土産」「贈り物」という意味ですが、フランス語になると「思い出」というニュアンスも含まれてきます。

もちろんこんな部分に触れなくてもこの歌は成立していますが、アニメのテーマ上この2重性は作詞者の頭にあったんじゃないかなというのが僕の考察です。

主人公にとって「あなた」と出会って輝き始めた日常の一つ一つがあなたに話したい「お土産」のようで、それは2人で紡いだ「思い出」になる。

このタイトルにはこんな意味があるのではないかなと思っています。

 

退屈な毎日に彩りをくれた出会い

以上のようなタイトルの前提を踏まえて歌詞を見ていきます。

〈恐らく気付いてしまったみたい あくびの色した毎日を 丸ごと映画の様に変える 種と仕掛けに出会えた事〉

「恐らく気付いてしまったみたい」と始まるAメロですが、この「気付い"てしまった"」という出だしからは、「もう気付く前には戻れない」というニュアンスが感じ取れます。

「あくびの色した毎日」と「映画の様に」というのは、それぞれ「退屈」と「わくわく」と判断すれば良いでしょう。

主人公は退屈な毎日をワクワクするものに変えるきっかけを得てしまった。

そして気付いたからにはもう前には戻れないというのがAメロの始めで歌われます。

 

続くAメロでは、〈仲良くなれない空の下 心はしまって鍵かけて そんな風にどうにか生きてきた メロディが重なった〉とありますが、これは上のAメロとメッセージ自体は同じであると解釈するのが妥当でしょう。

「メロディが重なった」というのはあるきっかけで変わったということだと思いますし、後でその「メロディが重なる」相手は「あなた」であることが分かりますが、ここではあえてそのままにしておきます。

 

続くBメロに。

〈小さくたっていい街のどんな灯よりも ちゃんと見つけられる 目印が欲しかった〉

「灯」は希望のモチーフで使われることが多いため、「街のどんな灯」というのはさまざまな希望のメタファーとして一旦解釈します。

そして主人公はそうした「希望」ではなく、「小さくてもいいからちゃんと見つけられる目印が欲しかった」と言います。

これは「希望」と対であると考えると「居場所」くらいになる気がします。

主人公は大きな希望ではなくていいから、せめて自分の存在が受け入れられる場所が欲しいと望みます。

これはちょうど「SPY×FAMILY」におけるロイドに拾われてワクワクする毎日を手にしたアーニャとも重なります。

この歌の主人公は「あなた」に受け入れられることで、世界が輝き始めた訳です。

 

〈この目が選んだ景色に ひとつずつリボンかけて お土産みたいに集めながら続くよ帰り道
季節が挨拶くれたよ 涙もちょっと拾ったよ
どこから話そう あなたに貰ったこの帰り道〉

このサビで主人公の思いが全てまとまります。

「目が選んだ景色にリボンをかける」というのはあなたに出会うことで輝き出した世界の中で、気になったものを一つ一つ大切な思い出にしたいというもの。

「お土産」みたいに集めて「帰る」その先はもちろん「あなた」の元でしょう。

1日の出来事を大好きな「あなた」に語りたい。

そんな主人公の喜びに満ちた内面が伝わってきます。

「季節があいさつをくれた」「涙もちょっと拾った」というのは、嬉しいことだけじゃなく、悲しいことやちょっとした変化も含め、そんな全てを「あなた」と共有したいという気持ちの現れでしょう。

そして「あなたに貰ったこの帰り道」と締められることから、やはりこうした変化のきっかけとなった存在が「あなた」だったということを示しています。

全部引用するのは気がひけるので、サビのラストは省略しますが、最後は「歩いたら急いだり、走っては歩いたら」しながらあなたのもとへと向かう姿が描かれます。

これはアーニャがちょこちょこと歩く場面とも重なりますし、そんなソワソワしながら家に向かう主人公のワクワクした心情とも捉えることができます。

 

生きる意味を見つけた主人公の今の思い

〈こうなるべくしてなったみたい 通り過ぎるばっかの毎日に そこにいた証拠を探した メロディが繋がった〉

2番のAメロは「こうしてなるべくしてなったみたい」と現在を噛み締める場面から始まります。

そして、これまでは「通り過ぎるばっかの毎日」だったのが、「そこにいた証拠を探す」ようになったと変化を語ります。

それまでは生きる意味なんて見出していなかった主人公が、ひとつひとつ生きる意味を探す様になったのは非常に大きな変化です。

そして「メロディが繋がった」というのはやはり「あなた」との出会いのことだと思います。

 

そしてBメロでさらに展開をします。

〈そうしてくれたように 手を振って知らせるよ迷わないでいいと 言ってくれたように〉

1番ではあなたに出会えて世界が変わったと言った主人公が、ここでは「そうしてくれたように手を振って知らせるよ」と対等に振り返す様が描かれます。

1番では主人公があなたのおかげで「変われた」あなたのもとへ「帰る」と、実は「あなた」そのものは出てきていませんでした。

しかし2番のBメロで手を振り返すことで、初めてこの歌に「あなた」が登場します。

 

著作権的に省略しますが、2番のサビでは2人が出会えた奇跡を噛み締めながら「あなた」の元へと向かう主人公が描かれます。

 


ここから間奏を経て最後のサビに入るのですが、ここでは特に2番のサビと最後のサビのラストの部分に出てくる変化に注目したいと思います。

これが2番のサビ

〈どこからどんな旅をして 見つけ合う事が出来たの あなたの昨日も明日も知らないまま帰り道 土砂降り一体何回くぐって笑ってくれたの 月より遠い世界から辿ってきた 帰り道〉

それに対して大サビのラストは次の通りです。

〈どこからどんな旅をして 見つけ合う事が出来たの あなたの昨日と明日が空を飾る帰り道 この目が選んだ景色に とびきりのリボンかけて
宇宙の果てからだろうと辿っていく 帰り道〉

この二つを比較して変わっているのは2フレーズ目以降です

①〈あなたの昨日も明日も知らない〉⇔〈あなたの昨日と明日が空を飾る〉

②〈土砂降り一体何回くぐって笑ってくれたの〉⇔〈この目が選んだ景色にとびきりのリボンかけて〉

③〈月より遠い世界から辿ってきた〉⇔〈宇宙の果てからだろうと辿っていく〉

①ではネガティブ→ポジティブに、②ではあなたのおかげ→自分が行うに、③では過去→未来へと変わっています。

それらを組み合わせれば2番のサビは「あなたの笑顔のおかげで自分は今がある」、大サビは「あなたとの時間を共有してこれからを歩みたい」みたいな感じでしょうか。

やや強引ですが、このくらいの解釈が妥当な様に感じます。

 

パートナーにこれまでの感謝とこれからへの感謝を伝える「SOUVENIOR」

僕が「SOUVENIOR」という曲を聴いて持った印象は、「自分が変わるきっかけにパートナーに対する感謝の気持ち」と「これからも一緒によろしくねという気持ち」を歌った曲というもの。

そしてそのために必要なのが知らない昨日や明日でなく、今を精一杯楽しむこと。

つまり2人で一日一日の小さな日常を大切にしていこうというのがこの曲のテーマではないのかなと思っています。

そしてその感謝としての「SOUVENIOR」が「贈り物」、これからも一緒に歩こうという意味での「SOUVENIOR」が「思い出」なのではないかと。

 

そんなとってもとっても優しい主人公の印象を受けるBUMP OF CHICKENの『SOUVENIOR』は、「SPY×FAMILY」のオープニングにはぴったりだなと思いました。

 

 

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