新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



E-girls『Pain, pain』考察〜言葉遊びの裏に隠れた「Pain pain,don't go away」の真意を探る〜

「濁り」が消えて出てきた本音の「信じたい」と、「濁り」に溺れて見えてきた「キズ」の対比

 

お盆休みに久しぶりにインプットをしようといろいろな曲を聴き漁っていたとき、偶然Adoさんの『新時代』に出会いました。
映画『ONEPIECE FILM RED』の表題曲で、Adoさん自体もメインキャラクターのウタとして映画に登場します。
そんな『新時代』の歌詞には「新時代はこの未来だ」と「信じたいわこの未来を」という「新時代」の“にごり”が取れると「信じたい」という言葉になることと、それが本音になっているという構成が気になったのですが、それと同時に思い出したのがE-girlsさんの『Pain, pain』でした。
「キス」に痛みがふたつ重なると「キズ」になるという言葉遊びで、『新時代』とは真反対のアプローチをとっています。
この曲を始めて聞いたとき、当時これは考察しがいがありそうだなと思ったのですが結局放置していたことを思い出し、久しぶりに当時のメモを取り出してきました。
で、これはエントリにしておきたいなと思ったため、今回はE-girlsさんの『Pain, pain』を考察していきたいと思います。
(Adoさんの『新時代』も近いうちに…)

 

『Pain, pain』歌詞考察


〈このキスに二滴 雫を垂らせば またキズになるわ それでも好きです〉
『Pain, pain』はこんな意味深なAメロから始まります。
この曲はこのワンフレーズで、主人公の置かれた境遇を説明しきってしまいます。
「キス」に二滴(ふたつ)雫を垂らすというのは涙か痛みかはわかりませんが、「キス」に濁音をつけると「キズ」になるということを表します。
「キス」という快楽が、相手の仕打ちで“濁ら”されてすぐに「キズ」になってしまう。
しかもそれは「また」の出来事。
主人公が頻繁に「キズ」を負っていることがわかります。
主人公は快楽もくれる替わりにたくさん傷つけてくるような相手のことを好きになっている。
おまけにその相手との関係から、本人は抜け出せなくなっている。
たった30字足らずでそんな主人公を説明しきってしまうのはすごいなと。


〈「バカだね」って他人は 呆れて言うけど 月より妖しい あなたが好きです〉
こんな主人公の関係は周囲の人にも止められるようなもの。
それにもかかわらず主人公はその相手への依存が抜けられません。
そして三度目のAメロでは転調してこう続きます〈優しさと痛み おんなじ心で 感じながらみんな生きてるでしょ?〉
主人公の言い分は「優しさと痛みは表裏いったいなんじゃないの?」というもの。
主人公がたとえ自分が傷ついていることはわかっても今の相手に依存する理由はBメロで明らかになります。

 


〈哀しみは我慢できる ただ孤独は嫌なの 愛されたい〉
Bメロでは「孤独」よりも「哀しみ」のほうがマシと述べられます。
ここでの「哀しみ」は冒頭に出てきた「キズ」のことでしょう。
主人公はこの相手に何度もキズをつけられる=哀しい思いをさせられているようです。
それでもこの相手を離れたくない。
なぜなら離れてしまえば一人ぼっち(=孤独)になってしまうから。
おそらくAメロで「バカだね」といった人たちは確かに親しい人たちなのでしょう。
でも、主人公の孤独を癒してくれるほどの存在ではない。
そんな主人公の孤独を唯一打ち消すことができるのがこの歌に出てくる相手であると。
それがたとえ自分を傷つける存在であっても…


そんな思いがわかるのがサビの部分です。
〈禁断の花園で 咲いてしまった私 実りはしない 恋だって構わない〉
自らの恋心を主人公は「禁断の花園」と表現することからも、自分の恋愛が過ちであることは理解しているようです。
でも、その上でその恋愛を手放せない。
咲いた花になぞらえて「実りはしない」と言っているのは主人公が幸せにならないことの暗示でしょう。
しかしそんな恋であることは十二分にわかっている。
主人公にとっての何よりの痛み(=キズ)はこのことなのではないでしょうか。
そう考えるとこの〈行方を阻むのが棘でも 唱えるわ「Pain pain, don't go away」〉というサビの最後のフレーズはいっそう悲しい印象を帯びます。
「自分の進む道が棘でもいい」、その上で願いたい〈=望みを捨てたくない〉といって出てくる言葉は「Pain pain, don't go away」。
このフレーズはおそらく英語版の「痛いの痛いの飛んでけ(Pain, pain, go away.)」のオマージュでしょう。
直訳すれば「痛みよ消えないで」。
先に「優しさと痛みは表裏一体」と主人公は述べましたが、この言い方にもそのニュアンスがこめられているのでしょう。
痛みと一緒に優しさが去って孤独になってしまうくらいなら、いっそ痛みとともに受け入れたい。
そんな主人公の、ゆがんでいる反面ピュアな姿が描かれます。


もうひとつ、「痛いの痛いの飛んでけ(Pain, pain, go away.)」に対する「Pain pain, don't go away」で僕が感じたのは純真さと穢れの対比です。
まだ幼かった頃、キズをつけるたびにお母さんがかけてくれたおまじないの「痛いの痛いの飛んでけ」。
それをあえて反転させ「痛いの痛いの消えないで」とすることで、汚れを知って大人になったことと無償の愛で守ってくれる存在の不在を強調します。
あえて「痛いの痛いの消えないで」と唱えることで、どうしようもなく寄る辺のない主人公の孤独への恐怖が描かれるわけです。


この答えあわせがなされるのが2番です。
2番のAメロでは〈「ボタンの掛け違い」=運命のズレ〉とともに、〈「痛いの痛いの 飛んでけ」ってママが 幼い頃いつも 抱いてくれた〉という前のサビの内容の確認が現れます。
そしてそんな幼い頃の記憶を思い返すうちに主人公は大人になってしまった。
そして大人になるにつれ、「痛いの痛いの飛んでけ」のおもじないを信じていた純真な自分は見えなくなってしまった。
その結果が2番のBメロのこの歌詞。
〈いつからでしょう 幸せと不幸せ 境界線がああ 歪んでしまったのは…〉


〈禁断の花園に 迷い込んだ私は 叶いはしない 夢だけを見ている〉
2番のサビは1番と多少異なってはいますが、いいたいことは同じでしょう。
したがってここの解釈は割愛します。
そして2番のサビの後半で〈あなたに逢うたびに泣いたって 平気なの「Pain pain, don't go....」と続きます。
ここで注目したいのは一番では自分で棘の道を選んだと言っていた部分が「泣いたって平気」という言い方に変わっている部分です。
1番まではどんなつらさにも向き合うという自分の意思の強さを口にしたのに対し、2番では相手の振る舞いに「泣いた」ということを吐露しています。
その上で先では「Pain pain, don't go away」と最後まで言い切っていたのが「Pain pain, don't go…」と最後まで言い切れなくなっています。
ここには繰り返し傷つく中で主人公が心のそこでかすかに感じている「あきらめ」が表れているようです。
痛みに耐えると覚悟しつつどこか限界を感じる主人公。
そんな思いを胸に歌は佳境へと向かいます。


続くCメロで主人公はアンサーを出します。
それは〈傷ついてもいい〉というもの。
どんなに傷つけられても、〈あなたの唇が〉傷に〈触れるのなら〉私はあなたを選ぶというもの。
〈蝶が舞うように 笑顔が飛び交う そんな場所探していないわ〉というのは、自分が主人公だとは思わない=幸せになれなくてもいいということでしょうか。
さらに蝶でないことはわかっている=しょせん蛾のような存在という読みもできなくはありません。
そう考えたら、注目をあつめる光の中心にいる憧れのある一方で、自分を傷つけるようなやつでもその「光」に寄らずにはいられないという主人公という構図も見えてきます。
そして最後に一番と同じサビ。


曲構成から見る両面性と本音

 


以上が僕が思うE-girlsさんの『Pain, pain』に対して僕が歌詞から受け取った印象です。
この曲は歌詞と同時に曲の展開でも、A, Bメロに不穏な(マイナーな)音階を置き、サビではいきなりポップなメロディになると言う構造をとっています。
僕にはこの曲展開そのものが、つらい日常(A,Bメロ)と楽しい瞬間(サビ)の構造になっていて、一瞬の悦楽のためにつらい仕打ちは耐えられてしまうという主人公を表しているようにも感じました。
その上で歌詞を踏まえると無理して楽しんでいる主人公の姿がいっそう思い描かれるみたいな。


いずれにせよ、面白い曲だと思います。
よかったら皆さんも聞いてみてください。