この曲の歌詞を見た率直な印象は、「もう小説やん!」でした。
それくらい複雑緻密に作られているなあと。
だからこそ漠然と聞いているだけでは色々と取りこぼす情報が出てくる気がします。
ということで今回は前置きなしで考察に入っていきたいと思います。
悪意なき前向きなアドバイスが人を何より片付ける
〈「凍りついた心には太陽を」 そして「僕が君にとってそのポジションを」そんなだいぶ傲慢な思い込みを拗らせてたんだよ ごめんね 笑ってやって〉
いきなり「ごめんね」と謝罪から入るこの楽曲。
国語の授業ではよく、物語の初めと終わりでの主人公の変化が出てきたらその部分に注目をするのですが、この曲では初っ端にその変化した「後」が描かれます。
主人公は「凍りついた心には太陽を」「僕が君にとってそのポジションを」というような「傲慢な思い込み」をしていたと言っています。
初めの「 」内の言葉は、「僕が導くから前向きに頑張ろう」みたいなポジティブなもの。
とくにキラキラ輝くビジネスマンとかにこのタイプが多くいますよね(笑)
うまくいっていない人に「じゃあこうすればいいじゃん!」「一緒にやろうよ!」という人たちは、当然その言葉を心からの善意で伝えています。
しかし、繊細で弱っている受け手にとっては「悪意がない」からこそより傷つくということが少なくありません。
おそらく主人公がこうした言葉をかけた相手はまさにそのタイプなのでしょう。
その証拠に続くAメロで〈火傷しそうなほどのポジティブの 冷たさと残酷さに気付いたんだよ〉と歌っています。
それまで自分が善意で言ってきた言葉の残酷性に気がつく。
これがこの作品における主人公の心境の大きな変化です。
そして代わりに伝えたい言葉を〈 きっと君に渡したいものはもっとひんやり熱いもの〉と主人公は言います。
「悪意なきポジティブの押し売り」で他者を傷つけることを知った主人公が、ここから本当に相手に伝わる「言葉探しの旅」へと出かけます。
そして音楽的な話になってしまいますが、繊細な言葉を探すというニュアンスを出すために(多分意図的に)Aメロの4小節目のメロディの出だしを半音下げているのも凄いなとおもいます。
白と黒の間にある言葉を見つけ出す旅
そしてBメロへ。
〈綺麗事じゃないけど綺麗で揺るぎないもの うわべよりも胸の奥の奥を温めるもの〉
冒頭で自分の過ちに気づいた主人公は上辺ではない相手に響く言葉を探し始めます。
しかし〈理想だけはあるけど心のどこ探しても まるで見つからないんだよ〉とあるように、主人公はいくら考えてもその言葉を見つけ出せません。
僕は『Subtitle』という曲の凄さは個人的にここにあると思っていて、実はこの時点で、自分の間違いに気づいたものの、「理想」の言葉を自分の「心」に求めています。
上辺の言葉では相手に届かないことはわかったのですが、その主人公が探しに行くものは「理想」で、しかも今の今までポジティブで人を傷つけていた「傲慢な」自分の「心」なんです。
また後で触れますが、この指摘されて気付いたけれど、心の奥の部分でその意味が理解しきれていない主人公のスタンスの前振りがむちゃくちゃ効いてくる構成になっているのです。
さらに展開して2パターン目のBメロへ。
この曲はBメロが二段階構成という少し特殊な作りになっています。
僕はこれを言葉探しに迷う主人公を構成で表現するための仕掛けなのかなとも思ったのですが、その辺は専門家ではないのであくまで妄想に留めておきたいと思います。
〈伝えたい伝わらない その不条理が今 キツく縛りつけるんだよ 臆病な僕の この一挙手一投足を〉
これも2番の歌詞に繋がるのですが、ここでようやく主人公は「臆病な僕」と自分の弱さに気付きます。
ただし今はまだ関係ないので、ここでは言葉が見つからず悩む主人公を押さえておけば良いでしょう。
そしてサビへ。
〈言葉はまるで雪の結晶 君にプレゼントしたくても 夢中になればなるほどに 形は崩れ落ちて溶けていって 消えてしまうけど〉
温まると溶けてしまう雪の結晶のように、自分の熱い好きな気持ちを伝えようと言葉を探せば探すほど、言葉が見つからない事を嘆く主人公からサビは始まります。
これも軽く触れるにとどめておきますが、ここでも「自分の熱い気持ちを伝えるための言葉」を自分の中に探そうとする主人公が描かれます。
そして続くサビの後半では〈でも僕が選ぶ言葉が そこに託された想いが 君の胸を震わすのを諦められない 愛してるよりも愛が届くまで〉と続くわけですが、ここでもまだまだ「君の胸を震わす」正解の言葉を見つけてみせると誓います。
君が感動するまで「諦めない」、「君の胸を震わす」ってのは実はAメロの冒頭で言った「凍りついた心には太陽を」「僕が君にとってそのポジションを」とスタンスとしては同じです。
つまり、主人公は好きな人に言われた言葉で反省はしたものの、答え探しの段階で同じループに陥ってしまっているということです。
少なくとも1番までは...
「君」に響く言葉はどこにあるのか?
2番のAメロは次のように始まります。
〈薄着でただそばに立ってても 不必要に汗をかいてしまう僕なんかもう どうしたって生温く 君を痛めつけてしまうのだろう〉
ここでは明らかに今までと違う主人公の心境が描かれます。
「薄着でただそばに立ってても」もいうのは何もしなくてもと言う意味でしょう。
何もしていなくても「不必要にかく汗」は相手に気を使わせてしまうような態度になってしまう。
ここからは、自分の何が悪いのかが分からないけれど、相手に気を使わせてしまっている事だけは理解できるようになった主人公の姿があります。
そしてBメロで〈「手のひらが熱いほど心は冷たいんでしょう?」 冗談でもそんな残酷なこと言わないでよ〉とここで初めて「君」から言われた言葉が登場します。
1番のサビに出てきた雪の結晶(物理)=言葉(心情)という比喩から考えれば、手のひら(上辺の言葉)=心(本心)くらいに捉えても構わないでしょう。
つまり、ここでは「あなたの言葉は上辺だけでぜんぜん響かない」と突きつけられているようなものです。
そんなきつく言わなくても...なんて言う気にもなりますな、続く歌詞で「そんな残酷なこと言わないで」とあるので、何が主人公に心当たりはあるし、本気で変わるきっかけにもなる予兆とも読み取れます。
そして大きく転換するのは次のBメロです。
〈救いたい=救われたい このイコールが今 優しく剥がしていくんだよ 堅い理論武装 プライドの過剰包装を〉
主人公はこの瞬間、自分の「救いたい」と言う気持ちが、「救われたい」という気持ちであったと言うことに気づく(認める?)ことになります。
それまで、主人公は自分のスタンスが相手に響かないことは気づいていましたが、その理由が分からぬまま、今の自分の心の中に、相手に響く言葉を探しにいっていました。
それが迷う反面「理想の言葉を自分の心の中で探す」という姿勢や「君の心を震わすまで諦めない」という姿勢に出ていたわけです。
でも必要なのは言葉を探すことではなくて、自分の弱さと向き合うことだったわけです!
そしてそんな弱さやカッコ悪さをひっくるめた等身大の言葉にこそ「君」が求めていた愛があるというのを聞き手に伝えるのがこの場所。
主人公が今まで探した言葉はどんなに考え尽くしても自分のプライドで取り繕ったものに過ぎませんでした。
でも「救われたい」と、君がいないとダメなんだという気持ちにここで気付きます。
そして2番のサビに。
〈正しさよりも優しさが欲しい そしてそれを受け取れるのは イルミネーションみたいな 不特定多数じゃなくてただ1人 君であってほしい〉
1番の「僕が君を感動させてやる」というスタンスから180度転換して、「ただ君1人から優しさをもらいたいんだ」と自分の気持ちをさらけ出しています。
この時点で初めて僕は「君」に等身大の言葉で向き合えるようになったのです。
雪の結晶の比喩の変化と「Subtitle」という曲名の意味
Cメロの前半はこちら
〈かけた言葉で割れたヒビを直そうとして 足しすぎた熱量で引かれてしまったカーテン〉
ここの「かけた」は「あなたに"掛けた"」なのか「僕の"欠けた"言葉」なのかで意味が変わってしまうのと、これでは判断不能なので(おそらくダブルミーニング?)、両方から解釈します。
2番のサビでどんな言葉を伝えれば良いかに気づいた主人公ですが、当然失敗することもあるでしょう。
何かあったときに「ヒビを直そう」とあなたに掛けた言葉が欠けているせいでつい齟齬が生まれることもあるという主人公。
それでも〈そんな失敗作を 重ねて 重ねて 重ねて 見つけたいんだいつか 最高の一言一句を〉と言います。
ここでも冒頭では唯一絶対の正解を求めるような主人公から、何度も失敗を重ねる中でぴったりのひと言を探したいというように、大きな変化が見られます。
また表現上の特徴として、「欠けた言葉」「割れたヒビ」「足しすぎて」「引かれてしまった」の部分が「かけ」「わり」「たし」「ひき」と加減乗除になっていて、ここもあれこれ考えるメタファーになっていることも非常に面白いところだと思います。
そして最後にサビの繰り返しへ。
〈言葉はまるで雪の結晶 君にプレゼントしたとして 時間が経ってしまえば大抵 記憶から溢れ落ちて溶けていって 消えてしまうでも〉
最後のサビの部分では「言葉はまるで雪の結晶」という比喩が、「自分の熱で溶けてしまい見つからない愛の言葉」から「伝えたところでどうせ殆どがすぐに忘れられるもの」の意味に変わっています。
そしてこれは次に出てくる「映画の字幕」という比喩につながっています。
〈絶えず僕らのストーリーに 添えられた字幕のように 思い返した時 不意に目をやる時に 君の胸を震わすもの探し続けたい 愛してるよりも愛が届くまで もう少しだけ待ってて〉
この最後の場面で、あなたに贈る言葉が「映画の字幕」のように、自分たちの人生の場面場面を切り抜いたものでありたいと歌います。
『Subtitle』とは英語で字幕の意味。
藤原聡さんはこの部分に1番注目して欲しくてこのタイトルにしたのだと思います。
これは、一瞬一瞬その時々にお互いの等身大の言葉を紡いでいこうというような意味でしょうか。
自分の中から最高の言葉を探そうとしていた主人公はこの時点で人生の瞬間を自分の言葉で表したい、そしてそんな言葉の中に「君の胸を震わすものを探し続けたい」となっています。
そして等身大の自分で「君」と人生を過ごす中で「好き」よりもっと「好き」が言葉を見つけてくるからという言葉を伝えます。
最後は〈言葉など何も欲しくないほど 悲しみに凍てつく夜で 勝手に君のそばで あれこれと考えてる 雪が溶けても残ってる〉となっていて、またラストで難解になっているのですが、僕はこの部分はあえてシンプルに、冒頭の主人公の気持ちとの対比なのかなと考えました。
冒頭で「凍りついた心には太陽を」「僕が君にとってそのポジションを」というような「傲慢な思い込み」をして傷つけて「ごめんね」と言っています。
おそらく、主人公はラストサビに出てくるようなつらい場面にいる「君」に、かけてしまった言葉なのではないかというのが僕の解釈です。
そしていろいろ考えて、自分で向き合って、結果出た答えが悩んでいる時は「勝手に横に座って」「あれこれ考えてる」というスタンスにたどり着いたわけです。
初めは悩んで座り込んでいるパートナーにポジティブな声で手を差し伸べて引っ張ろうとしていたのが、パートナーが悩んで立ち上がれなくなったとき、そっと横に座ってそばにいるよというスタンスに変化してた。
そんな、最愛のパートナーのために自分が変わろうとするとっても素敵な主人公を描いた歌だと思うのです。
おわりに〜初視聴時点で書き出していた「前書き」
実はこの曲の考察を書くにあたって、文章の構成を考える中でプロットを大きく変更する事がありました。
その際ざっくりと前書きをカットしたのですが、作品考察という意味では残しておきたいと思ったので、最後に初視聴時点で直感で考えた内容をつけておきたいと思います。
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世界にもし「好き」って言葉がなかったら、僕たちはそれをどう伝えるだろう?
Official髭男dismの新曲『Subtitle』を聞いた時、僕の頭には真っ先に住野よるさんの『君の膵臓をたべたい』のラストと、マンガ『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編のクライマックスを思い出しました。
『君の膵臓をたべたい』では、膵臓に病気を抱えるヒロインとその秘密を知る主人公が心を寄せる物語で、最後ヒロインが死んでしまい2人は結ばれることがないのですが、お互いが最後に相手に当てた手紙とメールの文面に「君の膵臓がたべたい」と書いてあることから、思いが通じ合っていた事が分かります。
一方、HUNTER×HUNTERのキメラアント編では、絶対的な力を持つ危険生物の王と、村育ちの盲目の娘で、誰からも愛情を受けたことのない娘が将棋のようなゲームでの対局をするうちに惹かれあい、戦争の後、2人はお互いに「ありがとう」と言うことで心が通い合った所で息を引き取るシーンが描かれます。
この2作品に共通する所は、互いに「好き」という言葉を使わずに好きな気持ちを伝えようとするところ。
HUNTER×HUNTERに関しては誰もが平伏する絶対的な力を持つ王も、誰にも必要とされない盲目の少女も、共に「好き」という言葉を知ることなく育ってきました。
そんな2人が心惹かれ合い、最後に「好き」と言う概念に最も近いとして紡いだ言葉が「ありがとう」だったのです。
『君の膵臓をたべたい』に関しても、お互いにやりとりをする事で心の支えとなっていた相手に対して、今さら「好き」だなんて言葉では安っぽいような関係になっています。
そんな中で「好き」よりもっと愛情が伝わる自分たちだけの言葉はないかとたどり着いたのが「君の膵臓をたべたい」なわけです。
Official髭男dismの『Subtitle』もこれらの作品と同じで、自分の気持ちが相手に届く本当の「言葉探し」をしているのだなというのが、1度目に聞いた時の印象でした。
アイキャッチはOfficial髭男dismの『Subtitle』