新・薄口コラム(@Nuts_aki)

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山口百恵『プレイバックpart2』考察〜和歌の技法を使った歌詞の意図を読み解く〜

山口百恵さんといえば『いい日旅立ち』『秋桜』をはじめ、言わずと知れたアイドル。

『少女A』『DESIRE』『飾りじゃないのよ涙は』などのヒット曲を持つ中森明菜さんと並び時代を超えて知られる存在だと思います。

全く世代ではないのですが、お二人の名前と代表曲は僕でも知っています。

そんな山口百恵さんの曲の中でも個人的に興味があるのが『プレイバックpart2』です。

詳しくは後述しますが、この曲に仕込まれた技巧がとてつもないなと思うのです。

単純に歌詞を追うだけでも深掘りするところはありますが、その上この曲は和歌の伝統的な技法である「本歌取り」を用いている。

この辺を踏まえると受け止め方がまるで変わるこの曲。

今回はその辺りを中心に考察していきます。

 

ポルシェの女性はなぜ怒っているのか?

 

〈緑の中を走り抜けてく真紅(まっかな)ポルシェ ひとり旅なの 私気ままにハンドル切るの〉

こう始まる1番のAメロでは、情熱の「赤」をモチーフにしたポルシェを自由に乗り回す女性から描かれます。

あえて相対する「緑の中」を「赤のポルシェ」で駆け抜ける(=相対する関係に近い色をぶつける)という表現から、女性の刹那的な怒りが伺えます。

この物語の始まりは「何か嫌なことがあって飛び出した少女の話」ということです。

 

 Bメロではちょっとしたいざこざに巻き込まれる主人公。

〈交差点では隣りの車がミラーこすったと怒鳴っているから私もついつい大声になる〉

噛みつき返した説明をした直後にくるのは主人公の威勢です。

「ミラーこすった」と怒鳴られる訳なので、おそらく擦ったのは主人公の女性の方なのでしょう。

それに対して謝るのではなくケンカ腰の態度。

この部分から怒っていることが分かります。

そしてここからサビに。


〈馬鹿にしないでよ そっちのせいよ ちょっと待って Play back,Play back 今の言葉 Play back,Play back 馬鹿にしないでよ そっちのせいよ〉

「馬鹿にしないでよ」というのは女性が噛み付いた台詞でしょう。

今の言葉を取り消せというのが「Play back」

この曲が面白いのはここからです。

「Play back」と言ったのは目の前の口論相手かと思うと〈これは昨夜の私のセリフ〉と続きます。

〈Play back〉で間が空いた後、文字通りサビが繰り返されます。

そして戻ったところに出てくるのは口論相手の言葉ではなく昨日の話。

ここで急に回想に入ります。

〈気分次第で抱くだけ抱いて 女はいつも待ってるなんて 坊や、いったい何を教わって来たの 私だって、私だって、疲れるわ〉

この歌詞から前日の夜に恋人とケンカしたことが分かります。

そして、赤いポルシェで飛び出してイライラしていたという1番までの理由が明らかになる訳です。

イライラの理由と車に乗っていた理由が全て明らかになって歌は2番に続きます。

 

和歌の「本歌取り」を利用した技巧的な曲展開

 

2番のA Bメロは車で走るシーンが描かれるだけなので、著作権の都合上省略します。

 Bメロでラジオのボリュームを上げて聞こえる心地よい歌が次のサビにやってきます。

 

この曲の凄さは2番のサビ。

〈勝手にしゃがれ 出ていくんだろ ちょっと待って Play back,Play back 今の歌をPlay back,Play back〉

直接は書かれていませんが、これはラジオから流れてきた曲が沢田研二さんの『勝手にしやがれ』であったことを示しています。

『プレイバックpart2』ではこのような形で沢田研二さんの『勝手にしやがれ』の一部が引用されます。

これは和歌でいう「本歌取り」という技法で、先人が詠んだ有名な和歌の一節を引用することで、自分の歌の中に引用先の歌の物語を読み込むという技法。

 

例えば百人一首にある「み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣打つなり」という歌は古今集の「み吉野の 山の白雪つもるらし ふるさと寒くなりまさるなり」という歌にある〈み吉野の〉〈ふるさと寒く〉という言葉を引用することで、秋の寒さを歌ったこの歌の先に冬の景色を思い出させるように作られています。

こんな風に昔の和歌の一部を引用して、その歌と関連づけると更に深い解釈になるのが本歌取り

『プレイバックpart2』ではまさにこの技法が使われていることがわかります。

 

沢田研二さんの『勝手にしやがれ』は〈壁ぎわに寝がえりうって 背中できいている やっぱりお前は 出て行くんだな〉と始まり、恋人と喧嘩した後、寝たふりをして家を飛び出ていく女性の音を聞いている事が描かれます。

しかも2番のAメロでは〈バーボンのボトルを抱いて 夜ふけの窓に立つ お前がふらふら行くのが見える〉と「夜」に女性が家を出るシーンも描かれます。

彼女が『プレイバックpart2』の主人公というからくりです。

この歌を踏まえる事で、この曲に描かれる場面が初めて理解できるようになっている訳です。

 

そして「Play back」のセリフの後、戻るのは昨夜の場面。

1番同様、「Play back」のセリフ通り少し間が空いたあと再び始まるサビでは〈勝手にしゃがれ 出ていくんだろ これは昨夜のあなたのセリフ〉と昨日の夜にもどります。

そして直後に〈強がりばかり言ってたけれど 本当はとても淋しがり屋よ〉と心情が描かれる。

ここも『プレイバックpart2』だけを聞くと、実は寂しいと言っている女性しか見えませんが、『勝手にしやがれ』の〈せめて少しはカッコつけさせてくれ 寝たふりしてる間に〉というサビの歌詞と合わせて読むと、お互いに強がっている事がわかります。

つまりこのカップルはケンカでついつい強がったのだけど、本心では相手を好いている。

本歌取りを踏まえる事で、この歌の解釈はこんな風に深まります。

そして最後は〈あなたのもとへPlay back,Play back あなたのもとへPlay back〉と言ってこの歌は終わります。

 

以上がこの曲の構成。

曲そのものも色々な仕掛けがされていて面白いのと、本歌取りという技法が使われている点でも興味深かったので、この曲を取り上げてみました。

よかったらみなさんも『勝手にしやがれ』と合わせて聞き比べてみて下さい。