新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



DREAMS COME TRUE『未来予想図Ⅱ』考察〜3部作を比較して主人公の内面の変化を追いかける〜

 

突然ですが、みなさんは「部屋の扉を5回ノック」と聞いたとき、どんな「合図」が頭に浮かぶでしょうか?
おそらくほとんどの人の頭に浮かぶのは「ア・イ・シ・テ・ルのサイン」なのではないでしょうか?
実は「部屋の扉を5回叩く」というのは、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』に出てくる主人公が父親を殺す際に出てくる合図だったりします。
でもほとんどの人が思い浮かべるのは未来予想図Ⅱなはず。
今や「5回の合図」の代名詞とでも言うべき存在となったDREAMS COME TRUEさんの『未来予想図Ⅱ』ですが、実はこの曲は3部作となっています。
今回は、そんな「真ん中の作品」としての未来予想図Ⅱについて考察したいと思います。


「未来予想図」3部作と発表時期の妙

 

というわけで早速『未来予想図Ⅱ』の考察をしていきたいところなのですが、この曲に関しては、まず曲の制作と発表過程を頭に入れておく必要があります。
僕たちが1番馴染み深い「ア・イ・シ・テ・ルのサイン」が登場するのは『未来予想図Ⅱ』。
実はこの曲には『未来予想図Ⅱ』よりも前を歌った『未来予想図』と、『未来予想図Ⅱ』のその後を歌った『アイシテルのサイン〜わたしたちの未来予想図〜』という作品が存在します。
この曲を理解するには、この前後関係を知る事が不可欠なので、まずはそこから話を進めようと思います。

ⅠとⅡといわれれば、普通はⅠがヒットしたからⅡが発売されたと思うはずです。
しかしながら、ドリカムのこの『未来予想図Ⅱ』に関しては時系列が異なります。
まず『未来予想図Ⅱ』がヒットして、その前を描いた『未来予想図』がのちのアルバムに収録されるという形。
ちょうど、スターウォーズシリーズと同じ感じです(笑)
しかし、では『未来予想図Ⅱ』がヒットしたから商業上の理由で『未来予想図』が作られたかというと、そういうわけではありません。
この曲の作詞者である吉田美和さんは、歌手になるずっと前から歌を作り続けていました。
未来予想図ⅠとⅡはそんな、プロになる前に作っていた作品。
その中でⅡの方が周囲の目に止まり、そちらを世に出したというのが大きな流れでしょう。
だから、発売日は『未来予想図Ⅱ』が先になっていますが、先に作られたのは『未来予想図』ということになります。

他方、『アイシテルのサイン〜わたしたちの未来予想図〜』は、2007年。
この曲は映画ともに一役名が知られました。
『未来予想図Ⅱ』の発表が1989年、『未来予想図』でさえ、1991年に生まれた歌。
作られたのはかなり後で、それも映画のタイアップとして作成された曲。
だから、それぞれの曲に出てくる「サイン」はこの時系列を押さえて受け止める必要があります。
その辺を踏まえつつ、考察をしていこうと思います。


『未来予想図Ⅱ』歌詞考察

 

〈卒業してからもう3度目の春 あいかわらずそばにある 同じ笑顔〉
この部分は「何を」卒業したのかでイメージが変わってきますが、恐らくここでは「高校を卒業」と考えるのが妥当でしょう。
なんのインタビューだったか忘れましたが、金環日食を題材に歌った『時間旅行』という曲に関するインタビューの際に、吉田美和さんは「自分の経験から出てきた物しか歌詞にできない」と言っていました。
この曲は吉田美和さんがデビュー前、高校在学中に書かれたもの。
そう考えれば、高校を卒業した3年後と考えるのが妥当でしょう。
「あいかわらずそばにある 同じ笑顔」とは、『未来予想図』の1番 Bメロに出てくる、〈時々心に描く未来予想図には小さな目を細めてるあなたがいる〉を踏まえたもののはず。
『未来予想図』で主人公は今の恋人が笑顔で自分を見てくれている未来を思い描いています。
そんな「あの頃」に思っていた通りの「笑顔」が側にあることからこの歌は始まります。


〈あの頃バイクで 飛ばした家までの道 今はルーフからの星を 見ながら走ってる〉
続く繰り返したAメロではこう語られます。
「あの頃」のバイクは『未来予想図』の2番にに出てくる描写。
〈夏はバイクで2人街の風を揺らした〉とあります。
この時はバイクだった2人の移動手段が、『未来予想図Ⅱ』では「ルーフからの星を」という表現から車に変わったことが伝わります。
『未来予想図』では、「2人で街の風を揺らした」とあることから、2人でそれぞれのバイクに乗ってツーリングしている姿が伺えます。
それが『未来予想図Ⅱ』では、主人公は車のルーフから星を見ている。
この場面を頭に思い描くと、恋人が運転する車の中で、上を見上げている主人公が浮かびます。
ルーフ越しに見える星を見ながら助手席に座っている関係を浮かべれば、『未来予想図』の時よりも親密度が増していることが分かります。
そしてBメロへ。

〈私を降ろした後 角をまがるまで見送ると いつもブレーキランプ5回点滅 ア・イ・シ・テ・ルのサイン〉
Bメロでこの曲の代名詞とでも言える「ア・イ・シ・テ・ルのサイン」が出てきます。
車を降りた主人公が目にする5回の合図は「ブレーキランプ」
『未来予想図』では、このサインが「ヘルメットを5回ぶつけること」でした。
ヘルメットをぶつけることに比べると、実際にブレーキランプを5回点滅させる時間を考えれば少しリアリティに欠けるようにも受け止めることができますが、それはあえて高校時代の吉田美和さんが考えた『未来予想図』のカップルのその後を想像して描いたと思えばご愛嬌。
むしろ、そのことがこの曲の青春感を引き出しているようにも思えます。

〈きっと何年たっても こうしてかわらぬ気持ちで 過ごしてゆけるのね あなたとだから ずっと心に描く 未来予想図は ほらおもったとおりに かなえられてく〉
「何年経ってもこうして変わらぬ気持ちで過ごしてゆけるのね」というのは、『未来予想図』の時点から三年が経過した『未来予想図Ⅱ』の時間軸でも、全く変わらない関係性を保てている(=同じ「5回のサイン」が2人の変わらぬ関係を示している)ことから、これからもずっと一緒であることを確信させます。
そして、そんなずっと一緒にいるという「未来予想図」が描かれているのが、『未来予想図』の方。
『未来予想図』の歌詞の中では、1番のBメロで〈時々心に描く未来予想図にはちっちゃな目を細めてるあなたがいる〉、2番のBメロでは〈あなたの手を握りしめてる私がいる〉という「未来予想図」が描かれています。
これは優しく主人公を見守る恋人とそんな主人公の手を強く握る、すなわちいつまでもずっと一緒にいる恋人ということでしょう。
そんな未来を思い描いた『未来予想図』から三年経った『未来予想図Ⅱ』の世界では、本当に思った通りの未来になっていた。
そしてだからこそこれからも変わらぬ関係であることを思い描くわけです。
ここまでが1番。

2番では過去を振り返るシーンが続きます。
その振り返る先はもちろん『未来予想図』に描かれる3年前の物語。
〈ときどき2人で開いてみるアルバム まだやんちゃな写真達に 笑いながら〉
『未来予想図』と照らし合わせるのなら、付き合い始めたばかりの2人をアルバムを見て思い返しているのでしょう、
「やんちゃな2人」を「笑う」様子から、2人が地に足ついて大人になったことを連想させます。

2番のAメロの繰り返しですが、ここは歌詞にのっとって、やや変則的なブロックで解釈しなければ意味が通りません。
〈どれくらい同じ時間 2人でいたかしら こんなふうにさりげなく 過ぎてく毎日も〉
ここの部分は〈過ぎてく毎日も〉の部分をAメロ内で完結させることは不可能です。
これはBメロの末尾にある〈素直に愛してる〉の部分にかかっているのです。
Bメロに描かれるのは〈2人でバイクのメット 5回ぶつけてたあの合図 サイン変わった今も同じ気持ちで 素直に 愛してる〉というもの。
この二つを合わせれば、「出会ってからずっと時間は経って、毎日が当たり前になったけど、気持ちはバイクに乗って5回のサインをしていた頃と変わらないよ」という事が描かれています。

2番のサビは〈きっと何年たっても こうしてかわらぬ思いを 持っていられるのも あなたとだから ずっと心に描く 未来予想図は ほら 思ったとおりに かなえられてく ほら 思ったとおりに かなえられてく⋯〉
2番のサビは1番と近いものですが、〈変わらぬ気持ちで過ごして行けるのね〉だった部分が〈変わらぬ思いを持っていられるのも〉と変わります。
言葉で見れば僅かな違いですが、続く〈あなたとだから〉と合わせて意味を考えると、主人公の中で非常に大きな変化があったことに気づきます。
1番では、「変わらずいられて楽しいね」という主人公から恋人への単なる呼びかけに過ぎないのですが、2番になると「あなたのおかげでずっと変わらずにいられるんだ」という感謝に変わります。
この僅かな違いのおかげで、聞く人は主人公の大きな気持ちの変化に気づくことができる。
『未来予想図』で描かれた高校時代のカップルが3年の時を得て「変わらぬ関係性を確信」し、それは「パートナーのおかげである」と考えた主人公たちが次に結ぶ関係性はなんでしょう。
それはもちろん「結婚」しかありませんよね。
2番のサビ、というかこの『未来予想図Ⅱ』では、主人公が目の前のパートナーとの結婚を確信する瞬間が描かれているわけです。

 

『ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜わたしたちの未来予想図』に出てくるその後のアンサー

 

冒頭でも触れましたが、この曲には『未来予想図』『未来予想図Ⅱ』の発表から10年以上経って書かれた『未来予想図3』とでもいうべき曲が存在します。
二作品が発表されてかなり時間が経って作られたこの曲には、Ⅱまでに描かれた2人のその後の「答え合わせ」が描かれます。

 

〈ちゃんとあなたに 伝わってるかな?〉
こう始まる『ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜わたしたちの未来予想図』はこれまでのⅠ,Ⅱとは少しだけテイストが違うようにも感じられます。
Ⅰでは〈しっかりつかまえてて〉とどこか相手頼みだった主人公が、Ⅱでは〈もしかしたらこの幸せはあなたのおかげかも〉と気づきます。
そんな、どこか自分本意な感じも漂うこのシリーズの主人公が、Ⅲでは「ちゃんと伝わってるかな?」と、徹底的に相手を想うスタンスに変わるのです。
これは主人公が成長したととることもできますが、僕はこの部分に関しては、吉田美和さんのプライベートが少なからず反映されているように思います。
この曲が発売された年、吉田美和さんの夫は胚細胞腫瘍で亡くなっています。
この曲が収録されたアルバムが発売される直前に夫が亡くなっているのですが、病気からしてもこの曲が作られた頃には、吉田美和さんは病状を知っていたのではないかと思います。
そんな大切な人の「死」が常に頭にあったこらこそ、「自分はあなたに気持ちを伝えられていた?」という問いかけの曲になっているようにも思えます。
そして〈ねぇ あなたとだから ここまで来れたの
ねぇ あなたとだから 未来を思えたの 〉と続くAメロ。
当時、夫の死の後にこの曲を生放送で歌い、最後に涙を堪えきれなくなった吉田美和さんを未だに覚えています。
あの涙はこの歌詞にプライベートの想いが重なっているからであるように想うのです。


〈どんな明日が待っているかは 誰にも分からない毎日を あたりまえのように そばにいて いろんな"今日"を 過ごして来たの だから〉
こうBメロで語り、サビで自分の気持ちを伝えられていたかを確認します。
1番に出てくるのは「ヘルメットを5回ぶつける仕草」と「5回点滅するブレーキランプ」。
こうした過去の合図を振り返りながら、サビの最後では「愛してるって伝わってるかな?」と確認します。
〈ふたりの"今"が"昨日"に変わる前に〉というのは、一瞬一瞬、その場で気持ちを伝えることの大切さを言っているように聞こえます。

 


著作権と文字数の関係で割愛しますが、2番のAメロBメロでも、恋人との思い出を振り返ります。
思い出す思い出は日常の何気ないやりとり。
そんな数々の日常に感謝をして入るのが2番のサビ。
1番同様に〈ちゃんとあなたに伝わってるかな?〉
こう始まり、出てくるのは再び2人の「ア・イ・シ・テ・ルのサイン」です。
〈花火振り回しながら ハートを5つ書いたり〉
今まで通り5回動作を繰り返すのですが、前二作とは決定的に異なる所があります。
それが、この合図は主人公自らが行なっているものであるというところ。
それまではどこか恋人発信のところがあるような挨拶でした。
それがこの曲では主人公自らが発信をしています。
ここからは、未来予想図Ⅰ,Ⅱと通して主人公が成長した、より恋人を好きになっている様子が伺えます。


そしてCメロでは次のように歌われます。
〈ねぇ わたしたちの未来予想図は まだどこかへたどりつく途中 一緒にいるこんな毎日が 積み重なって描かれるのだから〉
未来予想図Ⅰ,Ⅱではそこに出てくる「未来予想図」はあくまで主人公が思い描いたものでした。
「時々心に描く未来予想図」「心に描くと未来予想図はほら思った通りにかなえられていく」
どちらもあくまで自分視点です。
それがこの曲では「私たちの未来予想図」となる。
そして、「思った通り」ではなく、「まだどこかへ続く途中」と変わります。
恐らくこの言い方から、2人は婚約ないし結婚はしているのでしょう。
そして、主人公は大きく成長して、相手のことを思い、「私の夢」を「私たちの夢」に変えている。
これは前2作から大きく時間が経つ(かつ、吉田美和さんのこの時の置かれた状態がある)からこそだと思うんです。


そして最後の大サビで出てくる新たな「ア・イ・シ・テ・ルのサイン」は〈おでこ5回ぶつけたり 何度もキスをしたり〉とやはり主人公発信のもの。
その証拠に〈ア・イ・シ・テ・ルって 伝えられてるかな?〉と、「伝わってる」が「伝えられている」と確固たる意思が込められた形に変化しています。
そして〈ふたりの"今"が 明日に変わる時も 新しいサインが 増える時にも〉と、未来を想うことで歌が終わる。


以上が未来予想図3部作です。
もちろんそれぞれに書き方があると思いますし、それぞれ単体で聞いても名曲なのは間違いありません。
その上で今回は3作の関連性と、そうした中での『未来予想図Ⅱ』という曲の立ち位置と歌詞の意味を考えてみました。
皆さんもよかったら3曲を聴き比べてみて下さい。


アイキャッチはドリカムの『未来予想図Ⅱ』