新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



クルタ族と幻影旅団の関係を設定から考える[前編]

 

今秋連載が再開したHUNTER×HUNTERですが、相変わらず毎回熱い展開を迎えています。

主人公不在でも他のキャラクターが主人公的なポジションを貼れるのはこの作品のお家芸だなと。

難しい設定や膨大な解説により、すでに読者が選定されているからこそ、さまざまなキャラクターが主人公的な立ち回りをしても成立するのかなと思います。

さて、そんな中でも興味が強いのはやはり幻影旅団の生い立ちが判明した部分です。

残虐の限りを尽くすと思われてきた幻影旅団が、実は悲しい過去をもつのではないかと言うこと、クルタ族との関係など、さまざま考えられそうな内容が出てきたので、備忘録として2回に渡り僕が思ったことをまとめたいと思います。

 

HUNTER×HUNTERの絵的な凄さ

 

今回の幻影旅団編の考察をするにあたって、まずは押さえておきたいのが、HUNTER×HUNTERの絵的な凄さの部分です。

その凄さを語る際、ストーリーやキャラクターに注目されがちなこの作品ですが、個人的には絵の構図の凄さに注目しています。

今回の連載再開の中で分かりやすい場面で言えば、ノブナガがトイレの壁を切るシーンでしょう。

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このような2コマが続くわけですが、刀の鞘に注目してみると、抜刀と同時に縦に置いたまま手を離し、両手で刀の柄を握り、四角に壁を切った後、スッと左手を鞘の上に添えるように描かれています。

何気ないコマなのですが、この描き方をすることで、いかにノブナガの剣術が速いのかを表しています。

こういう描写などから読み取れる情報量が異常に多いのが、HUNTER×HUNTERの魅力のひとつだと思うのです。

 

こうした作者の演出は、背景のトーンにも表れます。

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例えばこのパリストンという内面が読めないことで周囲を掻き回すキャラクターを描く際には、口八丁でデタラメを言う(本心ではない)場面では背景が黄色やオレンジ、しかもデタラメがピークになる時はインディアンの模様みたいなものまでが出る一方、本音に近づくにつれ、背景の色は濃い青になるように終始描かれています。

(元の作品ではデタラメが白、本音が黒という書き分けでした)

その代表が上に挙げた1枚目と2枚目に跨がる場面です。

ここで黄色→赤→青と背景が暗くなる事でタテマエから本音を話そうとする様子が描かれます。

これにより、読者に暗にパリストンというキャラクターがただの「嫌なやつ」でもただの「悪いやつ」でもなく、同時に非常に厄介な敵であることを示唆しています。

 

さらに構図にも注目です。

パリストンがタテマエで周りの邪魔をしている時は顔が右向き、本音で喋る時は左向きとなっています。

マンガは通常右から左へと視線が移っていくため、左側に配置された右顔(今回で言えば1枚目の下2枚)は読者の視線とぶつかり合うため敵を描くor人を止めようとする際に配置されがちで、右側に配置された左顔は読者の視線移動に沿うため、味方やこれから行動する場面で使われがちです。

分かりやすい例を挙げるとすれば、ONE PIECEに登場するこの場面でしょう。

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ジンベエがルフィの行動を止めようとする場面なのですが、進みたい主人公のルフィは右配置で左顔をみせ、それを止めたいジンベエは左に配置して右顔が見えるように描かれています。

パリストンの会話でも必ずこれがされているわけです。

(因みに同じ構図はクロロvsヒソカ戦でも使われていて、その時はヒダリにヒソカを置く事で、暗にクロロに負ける事が示唆されたような構図となっていました)

 

描写、構図に加えてもう一つHUNTER×HUNTERを楽しむ上で大事なものに、「演技」があると思っています。

「演技」というとドラマや舞台で役者がするものという印象になりがちですが、アニメやマンガの中にも演技をはさむ作家がいます。

(逆に「ワンピース」や「鬼滅の刃」「約束のネバーランド」といった、それを殆どしないからこそ分かりやすく人気になる作品もあり、どちらが良いandすごいと言うわけではありません)

HUNTER×HUNTERの富樫先生は間違いなく演技を挟むタイプ。

例をあげたらキリがないのですが、今回は旅団の話(まだ前置きです、すみません)ということで、マチとヒソカのやりとりを取り上げます。

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ヒソカは戦いで怪我をした腕を味方(実はこの後ヒソカは裏切る予定)に治して貰うのですが、これはその後に治してもらったマチと会話をするシーン。

ヒソカはバンジーガムとドッキリテクスチャーという2つの技を持っているのですが、後者は殆どの人間に隠しています。

マチはそのどちらもを知っている数少ない人間ということで、ヒソカが信頼している事が伺えます。

そんなマチの属する幻影旅団をヒソカは後に裏切るわけですが、この場面で何気なくマチを誘うシーンでその伏線となる演技がなされています。

ヒソカがマチに「団長もくるのかい?」と聞く場面ではヒソカの顔が隠されていて本心の表情が見えません。

一方、「一緒にご飯でも」と誘う際には嘘のような笑みとともに顔が描かれます。

これは「一緒にご飯でも」というのが嘘を含むということでしょう。

後の新しいおもちゃもできたことだしそろそろ狩るかというようなセリフと合わせれば、これがゴンという新たな楽しみができたため、幻影旅団を裏切る決心をした場面である事がわかります。

その際に(少なくとも他の団員に比べ)心を許しているマチを誘ったのは、純粋に食事という意味に加えて、仲間に加えようとか、マチだけは見逃そうというニュアンスがあるのでしょう。

この演技からマチとヒソカが敵対する事とヒソカが少しだけマチに愛着を持っていたことがわかります。

このヒソカの誘いをなんの勘ぐりもなく断るマチは、後にヒソカが生き返って旅団を全員殺すと宣言した際にメッセンジャーとして残された場面に対応してきます。

その辺は後半で触れるので今は置いておきますが、こんな風にキャラクターの演技が随所に登場するのがHUNTER×HUNTERの面白いところ。

※この辺は岡田斗司夫さんが自身のYouTubeで深く語っていましたことなので、気になる方はこちらをご覧ください。

https://youtu.be/Pa7p9bYkxao

 

伏線や展開予想をする際、ストーリーや元ネタを探るという方法もありますが、描写、構図、演技の3点から情報を集めることで、実は作者が密かにしまいている断片を集めると言う方法があります。

幻影旅団の関係を考えていくにあたって、今回は後者のアプローチをしていこうと思ったので、まずはその前段階として3点の説明をさせて貰いました。

後編ではこれらを元にして、幻影旅団の関係を考えていこうと思うので、よかったら次の記事もお待ちいただければと思います。

 

アイキャッチはもちろんHUNTER×HUNTER