新・薄口コラム

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



aiko「カブトムシ」考察~語感で語りかける歌詞の構成とカブトムシを選んだワケ~

センター試験に代わって2020年度から始まる「大学入学共通テスト」。
今年の夏に国語の例題が発表されました。
そこで例題として出題されていたのは和歌の鑑賞文。
その和歌が「視覚情報」であるのか、「触覚情報」であるのかというような内容でした。

この文章を読んで以降いろいろなJ-POPについて、この歌はどの感覚器官からの情報をもって歌にしているのかという視点で色々な歌を聞いているのですが、そうするといろいろなアーティストの癖が発見されて、アーティストやその歌にいろいろ驚かされることがあります。
その中でも僕が改めて凄いと思った一曲がaikoさんの「カブトムシ」です。
もともと好きな曲ではあったのですが、「どの感覚からの情報を歌ったものであるのか」という視点で見たときに、「嗅覚情報」「視覚情報」「触覚情報」「聴覚情報」が散りばめられていて、そこから伝わる情報量に圧倒されました。
例のごとく著作権に気を配りつつ、あくまで解説が主になるように歌詞を見ていきたいと思います。

僕がこの歌について最も気になっているのは、1番のAメロの後半〈「どうしたはやく言ってしまえ」 そう言われてもわたしは弱い〉という部分です。
ここの「わたし」が言われる言葉が何なのかを、他の歌詞から得られる情報を元に考えていきたいと思います。
まず冒頭の〈悩んでる身体が熱くて 指先は凍える程冷たい〉についてです。
冒頭は「体温」という情報から始まります。
〈指先は凍える程冷たい〉という表現から、季節が秋の終わりから冬にかけてと考えられます。
(後に〈琥珀の弓張月〉と出てきますが、これが秋の季語ということも根拠の一因です。)
外の寒さにも関わらず、気持ちが高まって身体は暑いというのがここの状況です。
そして先に挙げた〈はやく言ってしまえ〉のセリフ。
主人公であろう〈あたし〉がaikoさん自身を投影していると考え、またその口調からも考えれば、〈はやく言ってしまえ〉と言っているのは男性であると考えることができます。
男性のこの言葉に、主人公は〈そう言われてもわたしは弱い〉とためらいを示します。
直後2回目のAメロでは「将来のことなんかより今が大切」という主人公の心情が歌われます。
そしてBメロに入って突如として出てくる「メリーゴーランド」。
もちろんこのメリーゴーランドが実際に遊園地にいることを示しているという見方もできるとは思いますが、僕は〈白馬のたてがみが揺れる〉という実際には起こり得ないことで幻想的な描写にしているこの部分を、気持ちや二人のこれからを暗示したものであると解釈しています。
言わずもがな、遊園地のメリーゴーランドは楽しいアトラクションです。
そこには二人で過ごした楽しい日々というものが重ねられているように思います。
また、なぜ数あるアトラクションの中でメリーゴーランドであるのかということを考えると、永遠に続くと思っていた日々が、クルクルと周るメリーゴーランドに重なります。
メリーゴーランドがゆっくりと止まろうとしている。
そこには、二人の楽しかった日々が終わることが暗に示されています。

そしてサビに入ります。
〈少し背の高い あなたの耳に寄せたおでこ〉
この一節から、二人の身長差や距離感が分かります。
そして耳に触れるくらいの距離に近づいたときに香る〈甘い匂い〉。
嗅覚情報が入ることで二人の距離感が改めて聞き手に伝わります。
そして、〈甘い匂い〉が感じられるほど彼に近づくとその後ろで流れ星が流れる姿を目にします。
ここは視覚情報。
こうした距離感の中で胸を痛めながらあなたのことは生涯忘れないだろうと思っている。
主人公の気持ちがストレートに語られて一番が終わります。

2番のAメロは四季をあえて2小節ずつ使ってゆっくりと表現されます。
四季は「巡る」ものであり、それをひとつずつ丁寧に回想している。
これは、1番のメリーゴーランドを受けての表現と捉えるのが適切でしょう。
メリーゴーランドとの繋がりも去ることながら、1番のAメロは「感覚情報」にも注目する点が多々あります。
〈春〉は〈鼻先をくすぐる〉ということで嗅覚の情報、空の青さを見て感じる視覚情報としての夏。
そして袖を風が過ぎる触覚情報として秋を感じ、最後にふと気がつくと冬になっている。
それぞれの季節を感じる感覚器官を変えているところも非常に上手いなと思います。

2番のBメロになると、〈息を止めて見つめる先には 長いまつげが揺れてる〉という視覚情報が登場します。
この表現からはまつげの揺れが感じ取れるくらい近くにいるということが読み取れます。
距離を示す表現が全くないのに聞き手に距離感を伝えてしまうaikoさんの表現力はさすがです。

〈少し癖のあるあなたの声耳を傾け〉
2番のサビで再び聴覚情報が歌われます。
Bメロのおかげで耳を傾けなければ伝わらないくらいの声の大きさに〈深い安らぎ〉を覚えている主人公が想像でいます。
そして再び〈琥珀の弓張月〉という情景描写が登場します。

弓張月とは、ちょうど弓のように見える半月のことで、大体一ヶ月の中で7~8日か、21~22日くらいを表します。

〈気がつけば真横を通る冬〉という表現と合致する日付を考えるとしたら、11月の下旬と捕らえるのが妥当でしょう。

(11月の7~8日では冬には少し早く、12月の7~8日では遅い気がします)
また、やや強引になってしまいますが、ここにも「満ちては欠ける」という月にメリーゴーランドや四季と同じモチーフを見出すことができなくもありません。
そして、〈生涯忘れることはないでしょう〉ともう一度続く。
改めてみてみるとそれほど言葉も多くないのに、その中でみごとに物語が表されています。

最後に、この歌について最も疑問に残る「カブトムシ」について。
何を思ってaikoさんは恋愛の歌に昆虫の名前なんて付けたのかということについて考えてみたいと思います。
この「カブトムシ」という題名を読み解く鍵は、aikoさんが想定している季節を考える必要があります。
冒頭でも述べた通り、「弓張月」は秋の季語。
また、1番に〈指先は凍える程冷たい〉、2番で〈気が付けば真横を通る冬〉とあることから冬の始まりくらいと考えられます。
カブトムシは冬を越せない昆虫として知られており、そんな虫に〈私はカブトムシ〉というように自分を重ねるということは、ここでもやはり「もうすぐ終わる二人の関係」を暗示しています。
止まりかけのメリーゴーランド、冬へ向かう四季の移ろい、そしてカブトムシ。
一見すると意外性を狙ったようにみえるタイトルですが、ここにもしっかりとモチーフが含まれて居ます。

歌詞の内容を全部見てきたところで、最初の疑問である〈「どうしたはやく言ってしまえ」 そう言われてもわたしは弱い〉という部分に書かれた「言ってしまえ」と主人公が言われた言葉について考えたいと思います。
ここまでの僕の解釈で見ていただいたとおり、僕は「カブトムシ」の随所に散りばめられている「近いうちに直面する別れ」の歌と考えています。
その観点から僕が思う主人公がっているセリフは別れの言葉。
皆さんは主人公がためらったのは、どんな言葉だと思いますか?

 

アイキャッチaikoさんの「カブトムシ」

 

カブトムシ

カブトムシ