新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



マーケティングの分析①〜西村博之のYouTube戦略〜

本業は塾講師なわけですが、学部生時代の専攻が経済学だったことや、これまでにも本業とは別の部分でちょこちょこ広報やマーケティングに関わらせていただいていることもあり、そういった分野にはそこそこ興味があり、気になったものはメモ書きなどをしています。

で、ただメモしておくだけではなく、自分の中で咀嚼して保存しておくことで、今後の自分の仕事の役に立つのでは無いかと思ったので、気になったマーケティングや広報の事例をまとめておくことにしました。

 

西村博之のコンテンツ

スレッドの投稿サイト2ちゃんねるの管理人からライブ動画配信サイトのniconico動画を経て、現在はフランス在住で動画配信を行っている西村博之さん。

現在2021年4月時点で77万人の登録者、6600万再生がされています。

彼の配信はいわゆるYouTuberといわれる人の配信するコンテンツとは以下の点で異なります。

〈普通のYouTuber〉

①短尺

②編集、テロップ有り

③編集動画中心

ひろゆきYouTube

①長尺

②(ほぼ)無編集

③生配信

上の登録者数と再生回数だけを見ると、一見大した数字では無いように感じられますが、注目すべき点は一本あたりの収益率と動画の作成コストにあります。

ひろゆきさんの動画は基本的に1時間以上、中には2〜3時間のものも少なくありません。

収益に関して言うと、一本あたり10分未満の動画をあげている多くのYouTuberさんとは収益額が違います。

仮に最後まで見られるとしたら、一般的な動画の10倍以上の尺のあるひろゆきさんの動画は単純計算で10倍の収入が見込める訳です。

逆に言えばひろゆきさんの動画の場合、収入で勝負するのであれば、短尺動画を上げるYouTuberの1/10の再生数でも構わないことになります。

その計算でいくと、ここ最近の配信は軒並み10万pv越え。

収益率という観点からかなり優秀なコンテンツということができるでしょう。

 

また、視聴者からの質問に答えるという生配信スタイルという部分は制作コストの観点からも極めて優秀と言えます。

おそらく、手の込んだ編集をするYouTuberであれば、企画、撮影、カット割、テロップ入れなどで、どうやっても一本あたり数時間はかかることでしょう。

しかしひろゆきさんはその辺りが全ていりません。

この点も大きなメリットであるように感じられます。

 

さらに、これは生配信の強みなのですが、ひろゆきさんの場合、配信するたびにスーパーチャットと呼ばれる投げ銭も入ってきます。

(別にどんな質問にも答えるようですが、視聴者は投げ銭をしてひろゆきさんに質問をするというような流れになっています)

そのため、ひろゆきさんの場合は「撮影」それ自体でも儲かることができる仕組みになっている訳です。

 

マーケティングとして優秀な「偽ひろゆき」というYouTube戦略

さて、以上まででコンテンツとしての面白さをまとめましたが、本当に面白いと思うのはマーケティング戦略の方だったりします。

上ではひろゆきさんの動画が長尺ノー編集であるという話をしましたが、僕たちがYouTubeを開いておすすめに出てくる動画は短く、しっかりまとまっているものであるという印象があるはずです。

実はあの種々の編集済み動画は他の人が勝手に元ネタを切り取って編集したもののようです。

本人が自分の動画の無許可利用を公認しています。

その代わり、そこで得た収入の一定数は自分の所に収まるようにという仕組みを作っている訳です。

僕はこのやり方が非常に優秀だなと。

こうすることにより、①ひろゆきさんのライブ配信を切り抜いてまとめることで収入を得ることができる人がでてきます。また②ひろゆきさん自身にも再生数に応じて収益が入り、その上③「ひろゆき」の名を冠した動画が氾濫することで、元の動画のアーカイブへの集客にも繋がります。

このモデルを考えて実行したのが本当に凄いなと。

 

岡田斗司夫的手法とホリエモン的手法をうまく取り入れたひろゆきさんの戦略

自分の動画をコンテンツとして無料で出してしまうというのはずっと前から岡田斗司夫さん(あと内田樹さんあたり)が言ってきたことです。

「自分をフリー」にすることで認知度を上げて、結果的には市場で優位になるという思想はまさにこの戦略に近いものでしょう。

(最近では岡田斗司夫さんが自分のコンテンツの再利用という話をしていましたが、その辺にも通ずるものがあります)

また、数年前から堀江貴文さんや茂木健一郎さん、立花孝さんあたりが、撮って出しのノー編集動画というものを行ない、ある程度のアクセス数を稼いでいました。

ひろゆきさんのYouTube戦略はこの両者をうまく複合させたものだなあと思うのです。

 

この二つをうまく合わせることができたのは、2ちゃんねる時代に培った一般人巻き込み型のマネジメント手法と、ニコ動時代からのニコ生主(ニコニコ動画の中でライブ配信をする人の愛称)としてのスキルにあるように思います。

自分のコンテンツをフリーにすることで一般の人に編集パートを分離する。

さらに、生主として配信していたからこそ一般の方からリアルタイムで質問を吸い上げるという「無限にネタに尽きないシステム」を構築する。

この辺のシステム構築力はさまざまなものに応用できるように思うのです。

 

今の動画配信のシステム構築とベーシックインカムの繋がり

ここからは僕の勝手な想像です。

ひろゆきさんは数年前までしきりに「ベーシックインカムを実現しよう」というお話をしていました。

そのための主張も、予算制約的には物理的に可能であるから政治家に働きかけるという真正面からの主張から生活保護を国民がどんどん取り続けて実質的にベーシックインカムにしてしまうというシステムハック的なものまでさまざま。

僕は別にこの手法の妥当性や善悪の判断には興味がありません。

僕が注目したいのは、このひろゆきさんの動画モデルが、彼なりのベーシックインカムなのではないか?という部分です。

ひろゆきさんがコンテンツとして広まれば、そのコンテンツの収益化率は上がります。

素材としてのひろゆきさんはフリーなので、自由に使うことができる。

そうすると、お金に困った人はとりあえずひろゆきさんの動画をキチンと編集してアップロードすることで、少量かもしれませんが収益を得ることができる可能性が出てきます(もちろんそんなに簡単では無いことは百も承知です)

ある意味では初期投資ゼロ円で商品だけは既に与えられた起業ができる状態です。

これは極めて変則的ですが、ある種のセーフティネットの働きにもなるように思うのです(少なくとも僕にはそう見える)

 

人を救おうということより、社会実験としての色合いが強そうですが、もしかしたらそういう側面もあるのかなと思ったり。

そんなわけで色々な観点から面白い戦略だと思います。

 

アイキャッチはビジネス書として結構な売り上げになっているらしいこの本。

1%の努力

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