新・薄口コラム(@Nuts_aki)

こっちが本物(笑)アメブロでやっている薄口コラムから本格移行します。



一青窈『かざぐるま』考察〜「かざぐるま」に込められたメタファーを紐解いて主人公の想いを追う〜

「待つことも恋でした」

 

映画『蝉しぐれ』の主題歌として一青窈さんの『かざぐるま』を聴いたとき、「これだけで映画のキャッチコピーとして成立してるやん」という印象を抱きました。
この映画の正式なキャッチコピーは「20年、人を想いつづけたことはありますか。」というものだったのですが、要するに「待つことも恋でした」という意味なんだろうな、と。
そんな印象とともに僕の中に強く印象に残っているこの曲を今回は考察していきたいと思います。

 

運命に振り回されて結ばれない二人

 

〈あれは十四、五のほのか照れ隠し ふたりで歩こうと決めた 川ではないけど〉
過去の回想から始まる1番のAメロ。
照れながら『一緒に歩こう』と決めた、その道ではないところを歩む。
ここから二人は恋仲であったこと、そして今は二人が当時思い描いたのとは違う人生を歩んでいることがわかります。
映画『蝉しぐれ』は藤沢周平さんの代表作とも言える小説『蝉しぐれ』を原作にした作品です。
『かざぐるま』に登場する人物たちもこの作品に沿った関係性になっているため、まずは『蝉しぐれ』のあらすじをざっと拾っていきたいと思います。

蝉しぐれ』は文四郎という主人公とふみというヒロインの二人の恋を描く時代小説。
文四郎とふみは若いころにお互いに恋心を持つのですが、結ばれません。
文四郎はあるとき父が謀反の罪を被せられて死罪となり、文四郎自身も苦しい生活を強いられます。
一方でふみは藩主に見初められやがて側室に。
お互いを思いながらも離れ離れになり20年が経過したときに、二人は再会する機会に恵まれます。
数十年越しの気持ちが通い合って二人は一夜をともにするのですが、そこで文四郎が聞いたのはふみの出家するという意思。
文四郎は最後にふみに会えた半面、このときが最後になり、蝉しぐれが響く中、ふみのもとを去っていくところで小説が終わります。

こんな風に、ずっと相手のことを思い続け、ようやく出会えた二人も離れ離れになってしまう切なくも美しくお話が『蝉しぐれ』という作品です。
『かざぐるま』の歌詞に出てくる冒頭の「ふたりで歩こうと決めた 川ではないけど」という部分からはこの作品のストーリーが想起されます。

〈いつのまにここにいつのまによそに 水玉模様の僕は両手をふり返す〉
続くAメロの繰り返しではバラバラの運命を歩むことになる二人が手をふる描写が描かれます。
これは、愛し合っている二人が運命を受け入れて別れを告げる場面でしょう。
そしてサビヘ。

 

君にとっての思い出のひとつでいいという「僕」の想い

 

〈ただとおりすぎただけ 君がまわるためどこ吹いた風でした くるりかざぐるま〉
サビはこれだけ。
場面を頭に浮かべれば風車がくるりと揺れたそれだけの場面しか描かれません。
しかし、僕はこの淡白な感じがいっそうこの曲に出てくる「僕」の心情を引き立てているように思うのです。
「君がまわるためどこ吹いた風」と描かれていることから、「かざぐるま」が君、「風」が僕と解釈するのが妥当でしょう。
表題にしている「かざぐるま」を主人公にするのではなく、あくまで一瞬吹いた「風」に主人公をあてるのが非常にきれいだなあと感じるこの描写から、あくまで幸せの中心にいてほしいのは「君」で、自分のことは過去に一瞬吹いた風程度の存在として忘れてしまってくれてかまわないという主人公の想いが伝わります。
そして、自分は忘れられても相手の幸せを願うという気持ちから、「僕」の「君」に対する気持ちがわかる。
自分との出会いなんて、「君」にとっては遠い昔、ほんの些細な出来事に過ぎなくていい。
そんなスタンスの主人公。
2番でも一貫して同じ主人公の姿勢が描かれます。

 

「今の幸せ」と「あの日の幸せ」をともに抱く大人の恋

 

〈幸せだから、と急にいい人に いつか帰ろうと決めた 町ではないけど〉
2番のAメロは主人公の気持ちでしょう。
主人公もそれなりの幸せをつかんだようです。
しかし「いつか帰ろうと決めた町ではないけど」と言っているあたりから、一番の幸せは元の町に戻ること=「君」と結ばれることというわずかな未練が描かれます。
大人になるとずっと大切に思う人はいつつ、今目の前の人と結ばれるみたいな感情はわかるような気がします。
これは今の幸せに不満があるということなのではなく、今の幸せは紛れもない本物だけど、あなたのことはずっと思い続けていますという気持ち。
そんな「君」のことを未だに思い続けてる主人公が描かれます。
〈いつのまにかわりいつのまにふたり 幸せな夢の中できれいに泳げたの〉
別々の運命を進み、そこで別々の幸せを手にした二人だけれど、今でも当時の思いは忘れていない。
そんなずっと一人のことを想い続ける主人公。
このテーマは『蝉しぐれ』とまさに重なります。

〈ただお目にかかるため 君がまわるためどこ吹いた風でした くるりかざぐるま〉
ここでもたった一瞬の君との出会いでよかったと歌われます。
ただここでは「お目にかかるため」というように少し距離がとられた表現になっています。
ここには「どうせ結ばれなかったんだから」と自分に言い聞かすような雰囲気がにじみます。

 

アイキャッチはもちろん「かざぐるま」

かざぐるま

かざぐるま

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